「障害」で括られない人たちを描きたい。「種をまく人」竹内洋介監督〈新連載・映画を通して「社会」を切り取る〉

「障害」とは何か、改めて考えさせられた

――そうだったんですね。 竹内:そう思うと、「障害」とは何だろう?と改めて思わざるを得ませんでした。「障害」のケースは様々なので一括りにして決めつけることはできないのですが、少なくともダウン症の姪の存在自体が僕たちの家族や親戚を幸せにしたことは間違いありません。  僕の日常には幼い頃から障がいを抱えた人たちが存在していました。聴覚障がい者の叔父や叔母、他にも親戚や周囲にそういった人たちが何人もいたんですね。僕にとってそういう人たちと接することは特別なことではなかったのですが、ダウン症の姪が生まれてからは、改めて「障害」ということについて考えざるを得なくなりました。  当初の脚本を変更し、彼女をどのように登場させるかについては色々と考えました。映画の中の彼女は不幸に見舞われますが、そのことでより彼女の存在の価値を際立たせられると思ったんです。実際に姪も出演しています。 ――主人公が無実の罪を被るというストーリーはどのように生まれたのですか? 竹内:主人公の光雄はゴッホをモデルにしていますが、ある小さな村でゴッホが絵を描いていたところ、モデルの少女が妊娠し、ゴッホが父親として疑われて村を離れることを余儀なくされるも、父親は別の人物だったというエピソードに着想を得ています。  「種をまく人」というタイトルはゴッホの敬愛していたジャン・フランソワ・ミレーの「種まく人」という絵からきています。「種まく人」は新約聖書の中の一節が元になっているのですが、イエス・キリストの言葉を信じていたゴッホは「種まく人」を形を変えて何度も模写していていたんです。  聖職者を目指していたゴッホは、神の言葉を信じて「種まく人」になりたいと思っていたんですね。そして、聖職者の道を挫折して画家になった後は「イエス・キリストが言葉の種を撒いたように絵画で人々の心を救いたい」と考えるようになったのです。 ――ラストシーンが美しいと話題になっています。 竹内:震災直後に東北の被災地を訪れたのですが、その時に一輪のひまわりに出会いました。荒れ果てた地にたった一輪だけ咲いていたひまわりのイメージがずっと頭の中に残っていたので、ラストシーンは被災地にひまわりを咲かせて撮ることにしたんですね。  撮影する年に現地の方々の協力を得て、仙台市若林区の荒れ果てた土地を自分たちで一から耕し、肥料を撒き、約2000粒のヒマワリの種を植えて育てました。開花を迎えた頃、無事にラストシーンを撮り終えることができましたが、そのシーンに多くの方の思いが込められています。ぜひスクリーンで見て確認して欲しいですね。

そもそも「普通」とは何か

竹内洋介監督――第1作の「せぐつ」は背中にこぶを持つせむし男が登場し、2作目の「勝子」も心臓病を患う人物が登場しますね。 竹内:どの作品もコンプレックスがテーマになっています。デヴィット・リンチ監督の「エレファントマン」など、コンプレックスを持っているがゆえに他人とスムーズにコミュニケーションできない人になぜか惹かれるところがありました。自分にも通ずるところがあるので、そうした人たちの苦悩を描くことで自分自身の精神を保とうとしていたのかもしれません。 ――普通でないものを通して「普通の社会」に対して問いたいという気持ちがあるのでしょうか? 竹内:そもそも「普通」とは何かということですよね。人間はみんな違うので「普通」の定義を変えることで「障害」も変わってきます。そういう意味ではみんな障害を持っていますが、それについて考えようとはせず社会は明確な振り分けをしようとします。自分は「普通」の人間だと思うことで自分を守りたいのかもしれません。 ――確かに。 竹内:人間はみんな違って当然なのに「普通」や「正常」などの区別をつけようとする。だから、苦しみの中にいる人や、うまく生きていけない人は「普通」になりたいと願うようになってしまい苦しみから逃れられない状態に陥ってしまいます。  大人になるうちに「普通」とそれ以外を分けたがる人がたくさんいるということに気付きました。「障害」という言葉は医師が付けたものですが、その境目にあるものを本作で感じたり考えたりして欲しかったのです。苦しんでいたり、生きづらいと思っていても、「普通」の人が生きるように、そのままの自分で生きたいと思っている人がいるんですね。 ――事件を起こしてしまった知恵と母親の関係性も描かれます。 竹内:親が子どもに無意識に与える影響を描きたかったんです。子どもが可愛いと思いながらも、イライラしているとつい子どもに厳しいことを言ったり、当たってしまうことはありますよね。  本作の母親・葉子はダウン症の妹・一希に時間や手間をかけざるを得ない状態にありますが、手が掛かる分、姉の知恵より無意識のうちに可愛く思えてしまうのかもしれません。一方、知恵は自分が一希よりも可愛がられていないのではと感じてしまう気持ちが、やはり無意識のうちに育っていくのかもしれない。未だに多くの家庭で母親に育児負担がかかってしまっている日本社会の問題の一つなのではないかと感じています。
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社会から排除されて犯罪に走ったジョーカー、贖罪に走った光雄
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