また、外国人観光客からは、「君たちが行くようなローカルなお店でいいところはない?」ともよく聞かれる。我々日本人が修学旅行で訪れるような観光スポットにももちろん足は運ぶが、それ以上に「日本の日常」に興味を持っているのだ。
外国人観光客を巡っては、今回の高級ホテルを大量に作ろうという方針だけでなく、「クール・ジャパン」のような観光誘致にも疑問を感じることが多い。日本国内でしか知られていない役者やタレント、ゆるキャラを使ったCMなど、いったいどこが外国人にアピールするというのか。
世界で活躍するセレブやスポーツ選手なら話は別だが、あなたは自分が知らないスイスのコメディアンやイタリアのアイドルが登場するCMや広告を見て、それらの国に旅行へ行きたくなるだろうか? 訪れてくれる人ではなく、そのキャンペーンを“作る人”のための政策であるかのようだ。
東日本大震災に熊本の震災、さらには直近の台風による水害など、被災地復興もままならぬうちに、自国民放置で海外富裕層向けのホテル建設を国費で行うとは……
photo by くりかなこ / PIXTA(ピクスタ)
国費を使って受け入れ体制を整えるのであれば、どんな観光客がどんなところを訪れて、何が足りていないのかをしっかりと分析するべきだ。実際、草の根的にはそういった動きも起きている。新宿区のある飲食店のオーナーは次のように語る。
「付き合いのあるお店同士では、お客さんのニーズに合わせてお互いを紹介し合うようにしています。来年のオリンピック需要に向けては、外国語の地図やパンフレットを作ることも考えています。外国人のお客さんは僕らの“声”を頼りにしてくれますが、コミュニケーションが取りきれないこともあるので、少しでも受け入れる準備ができればと思っています。本当はそういうところにお金をかけてほしいんですけどね」
また、同じ飲食業界からは次のような声も上がっている。豊島区の居酒屋店長が苦しい胸の内を明かす。
「来年4月は受動喫煙がますます厳しくなります。店舗スペースの広いお店や資金力のある大手チェーンなどは設備に投資しても耐えられるかもしれませんが、うちのような小規模な店はそんな余裕もない。喫煙者の常連さんが離れてしまうのではないかと不安で仕方ないです。富裕層や大手ゼネコンに向けた政策よりも、今頑張っている中小企業に目を向けてほしいです」
空っぽの高級ホテルが乱立するなか、その周囲では個人店が続々閉店。そうして、安さと地元ならではの空気を求める外国人観光客は減少……。そんな負の連鎖が起きる可能性は決して否定できない。
東京五輪でも莫大な予算をかけたハコモノの使い道を疑問視する声が上がっているが、観光業で同じ過ちを繰り返すわけにはいかないだろう。
さらに付け加えるならば、東日本大震災に熊本の震災、さらには直近の台風による水害など、被災地復興もままならぬうちに、自国民放置で海外富裕層向けのホテル建設を国費で行うとは開いた口が塞がらない。
桜を見る会のように、公費でお友達を「お・も・て・な・し」することには長けている現政権。今回の菅官房長官のぶち上げた「ホテル構想」は、よもや政権向けに証言してくれたニューオータニへのお返しや、こちらも菅官房長官肝いりのカジノに絡む筋の外資系ホテル誘致につながったりするのではないか、注視していくべきだろう。
<取材・文/林 泰人>