この近くには川の堤防があり、住宅がその堤防より低く建てられている。確かに今の目で見れば危ないが、19号以前はそんなことは考えたことすらなかったに違いない。一年前、手賀沼の目の前に家を買ってしまった筆者と同じだ。
近くの家を見ると、ウッドデッキの土台が壊され、水圧で家屋に押し付けられた家があったり、明らかに新築間もないのにすでに床上浸水してしまった家もある。表札がついていない新築の家は、まだ発売中か引き渡し前のどちらかではないか。発売中だとすれば、今回水害のおそれがあることがわかってしまい、買い手を見つけるのは著しく難しくなり、価格も暴落したに違いない。そしておそらくは、この値段は今後十年かそれ以上は戻らない。不動産の価格暴落も、水害の一つである。
水圧で破壊されたウッドデッキの土台
昼食休憩で一度拠点に戻るが、すでにランチが用意されていた。カップヌードル、おにぎりやチョコレートなどだが、これらは全て全国の支援者から送られてきたものでまかなっている。実際に、筆者が拠点にいる間も続々と全国からの宅急便の積み下ろしが行われていた。この組織力の強さは「つながり」の大きな特徴である。
午後に入ってからも積載・移動・廃棄のサイクルを三度繰り返し、この日の作業は終了となった。最後にトラックへ積み込んだものが一番厄介なもの・濡れた畳である。
先述したように、泥水がたまった家財道具は非常に面倒くさいのだが、冷蔵庫に入った泥水は傾けて外に流せばよい。同じく泥水を吸い込んだ衣服があるならば、絞れば軽くなって小さくなる。本棚や食器棚も重ければバール等を使って板をはがし、分解すればよい。
こういった「小細工」が一切通用しないのが泥水とカビが揃う畳なのである。
倒しても出てくる水などほとんどなく、分解することもできず、当然絞ることもできない。現場で切り刻むわけにもいかず、はがしたり分解したりできる場所もない。どこの現場に行っても、畳処分の時には一同例外なく表情が曇る。それくらい、面倒な代物なのだ。
トラックに載せるだけでも面倒だが、集積場でトラックから降ろすのがまた一苦労なのである。いくつもの現場に行った筆者だが、畳だけは何度やっても気が重くなる。だが今回は、「畳セクション」で待ち構えていたユンボが巧みにトラックの荷台から畳を地面に叩き落とし、しかも今まであった廃棄畳の上に積み重ねてくれた。被災地で一番輝いて見えるのは、間違いなくユンボの使い手である。
その後再び拠点に戻り、終礼を行う。「つながり」本部には、必ずホワイトボードが一枚あり、そこに進捗状況が書かれている。たとえば、「本日ボランティア25名、延べ人数351人」「総ニーズ 53件・完了 37件 残り16件」といった感じである。
進捗状況が書かれたホワイトボード
ここで忘れてはならないのは、この「総ニーズ」とは断じて「現地で支援が必要なすべての家の数」ではないということだ。あくまでも「“つながり”スタッフが聞き取り調査をして、依頼があり、かつ期間中に引き受けられそうな件数」だけであるということだ。
先ほどの家での作業がまだ完全に終わったわけではなかったので、我々はもう一度行くつもりだったのだが、次の日は団体一同全員でネギ農家に行くとのことだった。ということで、次回はネギ栽培農家の話である。
<取材・文/タカ大丸>
ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『
ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「
ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『
貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。