鹿児島県の一漁協が、日本一の養殖ブリ、「鰤王」で世界に挑む

「鰤王」に試食に手を伸ばすムスリムの家族

「鰤王」に試食に手を伸ばすムスリムの家族。(写真:NPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN)

タイの和食ブームを支える「裏方」

 タイの和食ブームが止まらない。首都バンコクでは日本人経営店も無数にあり、日本とほとんど同じ味で和食が楽しめる。日本人在住者も増え、元よりタイが親日的な国であることに加えて、2013年から短期の観光ならビザが免除になって日本旅行ブームが続くこともあり、需要が高いからだ。  日本の飲食店進出や日本人調理師の移住も増えたので日本と同じ味が食べられるようになったわけだが、裏方の充実も忘れてはいけない。特に鮮魚を扱う商社が増えたことだ。だいぶ前の和食店は刺身などを扱わないか、店主などが自ら日本に行き、いわゆるハンドキャリーで魚を入荷するなどしていた。これではコスト高は避けられず、それが価格に反映された。商社がまとめて週に何回も輸入すれば、鮮度は上がり、価格は標準化する。これがバンコクでもハイクオリティーの和食が食べられる理由のひとつだ。  商社のほかにも、当然ながらバンコクや世界に向けていい魚などを送ろうという日本国内の生産者や市場の仲買人たちもいる。  そんな中、鹿児島県長島町の東町漁協”JF東町(あずまちょう)”が独自に世界へと魚介を送り出している。特に力を入れようとしているのが、鮮魚の需要が高まり、問い合わせも増えているタイの市場である。

日本一の養殖ぶりの産地の漁協が世界に挑む

日本の「鰤王」ののぼり

日本の「鰤王」ののぼり

 JF東町が世界に送り出す、主要な鮮魚は養殖のブリだ。  養殖というとやや抵抗を感じる人もいるかもしれない。天然の魚と比較しては味が劣ると思う人もいるだろう。しかし、養殖テクノロジーが発達した今、天然よりも味わいにばらつきがなく、寄生虫の心配も少ないので、むしろ養殖を好んで入荷する飲食店も多いと、飲食店経営者から聞いたこともある。  JF東町のブリは「日本一の養殖ぶり」として日本の市場では「海峡育ち 鰤王(ぶりおう)」と命名されている。国外ではブランド名「Buri-Oh」で展開。1998年には総合衛生管理HACCPを取得し、2005年にはブリの味わいを最大限に引き出すオリジナルの飼料まで開発した。さらに、独自構築した「ぶり養殖管理基準書」に従って稚魚から出荷用の処理まで行う、徹底した一貫生産になっている。  脂もよく乗っているが、肉類と違い魚介なのでヘルシー。そんな「鰤王」は日本だけでなくアメリカやヨーロッパでも人気が出ている。「日本一の養殖ぶり」はすなわち世界一でもあり、「鰤王」の出荷量はブリの中で世界一だ。すでに世界30ヶ国への輸出実績もある。  そこで満を持して和食市場が拡大しているタイへ、今年6月にJF東町はほかの産品と共に「鰤王」を初出荷した。日本人居住者が多いトンロー通りの日本村という飲食店などの集合地帯にある「トンロー日本市場(日本生鮮卸売市場)」で小売りや、バンコクなどの飲食店に卸し始めている。  今年10月25日から3日間開催された和食イベント「JAPAN FOOD ONE 2019」にはJF東町職員たち自らがバンコクに乗り込んだ。イベントはバンコク郊外の商業施設「ザ・モール・バンガピ」で開催された。これまでこういったイベントはバンコク中心部で開催されることが一般的で、郊外あるいは他県では集客力、購買力に難があると考えられてきた。ところが、「鰤王」販売ブースをタイ側で協力した企業の担当者によれば「過去最大で大盛況だったと言っても過言ではない」というほどタイ人が訪れたという。 「鰤王」はそういう意味では適切なイベントに出展できたと言える。この、地方の漁協とタイを結びつける進出劇にもある裏方が大きく活躍していた。
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