入管収容所で痛みを訴えても放置されたクルド青年、「癌」で右精巣を切除

睾丸の痛みを訴えるも、3か月半以上放置

「入管はひどい」と語るムスタファさん

「入管はひどい」と語るムスタファさん

 トルコ国籍クルド人のムスタファさん(26歳)が、弁護士とともに霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。  収容中に睾丸の痛みを訴えたが、3か月半以上放置されていた。解放後に自身で病院に行ったところ右精巣腫瘍と診断され、緊急手術により右精巣を切除した。この件について国賠訴訟をおこし、国に832万5000円の損害賠償を求めるものとした。  ムスタファさんは2012年2月10日に来日し、難民民申請をする。2016年に酒場で喧嘩に巻き込まれ、30万円の罰金を支払うこととなった。これがきっかけで収容され、3年4か月もの間、入管の収容施設で過ごすこととなる。  今年4月から、ムスタファさんは睾丸の痛みを職員に訴えるようになったが、なかなか聞き入れてもらえなかった。2週間ほど待たされ、やっと施設内にある非常勤医師のもとに連れて行かれた。  非常勤医師は、最初は「感染症ではないか」と思い抗生物質を出した。しかし、治癒する様子もなかったことから「外部の病院で検査したほうが良い」と判断し、ムスタファさんと職員にそう告げた。  ところが、ムスタファさんは外部の病院に連れて行ってもらえることは一度もなかった。日々、痛みを職員に訴えても相手にされない。鎮痛剤もしだいに効かなくなり、痛みで夜も眠れない日々を過ごした。  仮放免されることもなく、病院にも連れて行ってももらえないムスタファさんの焦りは募る一方で、ついには意を決して8月からハンストを開始した。

もし仮放免にならなければ、命を落とす危険があった

 9月5日に仮放免になり、やっと外に出ることかできた。痛みを訴えてから3か月半、とうとう一度も病院に連れて行ってもらえることはなかった。  解放後、自ら近隣の病院へ出向いた。医者から総合病院で検査を受けるよう指示され、紹介状をもらって9月10日に検査を受けたところ、右精巣腫瘍が発覚。9月13日に緊急手術が行われ、右精巣を切除した。  摘出した部位の病理学的検査の結果、腫瘍は悪性のもので「癌」であるとのこと。1か月に一度は採血・診察をし、3か月に一度はCT検査を行わなければならない。  まだ若いムスタファさんにとっては、体の一部を失うという、かなり絶望的なできごととなった。また病気が再発する可能性もないわけではない。ムスタファさんは、「入管に人生をめちゃくちゃにされた」と周囲に嘆いていたという。  大橋毅弁護士は「ハンストをやったことで出られたものの、そうでなければ解放の見込みはなく、命すら落とす危険があった」と強い憤りをみせる。

クルド人の難民認定率は、世界的には35%、日本は0%

記者会見

記者会見には多くの記者が集まった

 大橋弁護士はこの件について9月19日に、法務省出入国管理庁佐々木聖子長官あてに質問状を送っている。 ①誰の判断だったのか。 ②何らか合理的理由があると主張するものか、その場合いかなる理由でそのような扱いがされたのか。 ③今後も被収容者全般について同様の扱いを継続する方針か、そうでない場合どのような改革を行うのか。  2週間までの回答期限を設けたが、まだ佐々木長官からの回答はない。  トルコ国籍クルド人の難民認定は、世界的には申請者の35%が認められている。「しかし日本では0%。異常です」と大橋弁護士は言う。  ムスタファさんも、クルド人に対する差別・弾圧や、徴兵拒否を理由として日本へ亡命してきた。前述の「35%の難民認定」の中には徴兵拒否を理由とした人も含まれているが、日本では「国の義務なら(徴兵へ)行くのは当然」と、聞き入れてもらえない。  しかし、ムスタファさんは「この苦しい収容中でも、トルコに帰ろうとは一度も思わなかった。家族とともに日本で生きていきたい」と強い意志を見せている。  仮放免の延長は2週間だったり1か月だったりと不安定だ。そのうえ裁判の準備で、本人は病気でも休まる様子もない。1日も早く病気が完治し、裁判も良い方向に進んでほしいと願わずにはいられない。 <文/織田朝日>
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)など。入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)を2月28日に上梓。
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