―― 安倍総理はアベノミクスによって有効求人倍率が上昇し、失業率が低下したと述べています。
明石:有効求人倍率の上昇も失業率の低下も、ともに
アベノミクス前から始まっており、アベノミクスとは関係ありません(図4)。アベノミクス以降もずっと改善傾向が続いているのは、金融危機が発生していないからです。
月刊日本12月号より
数字が悪化した時期を見ると、1991年のバブル崩壊以降、雇用はどんどん悪化していき、1997年末に発生した金融危機によってさらに悪化します。2003年あたりから徐々に良くなりますが、2008年のリーマンショックで再び悪化します。つまり、アベノミクス以降は金融危機が発生していないから雇用の改善が継続したにすぎないのです。
そのため、再び金融危機が起これば、雇用はまた悪化するでしょう。しかし、失業率の急激な上昇はある程度抑え込まれるかもしれません。というのも、日本ではとにかく高齢者が増えており、医療・福祉分野の人材不足が深刻になっているからです。失業者はそこに吸収される可能性があります。
―― 賃上げ2%を実現したというのも、安倍総理の口癖です。
明石:安倍総理の言う賃上げは
春闘における賃上げ率のことです。そのため、当然のことながら春闘に参加した組合員しか対象になっていません。安倍総理が根拠としている連合のデータを見ると、調査対象となった労働者の割合は
雇用者全体の約5%程度にすぎません。
しかも、この
賃上げ上昇率は名目値です。実質賃金上昇率を見ると、アベノミクス以降は
民主党時代よりも圧倒的に低いのです(図5)。
月刊日本12月号より
―― とすれば、アベノミクスの効果があったと言えるのは株価くらいでしょうか。
明石:確かに株価は上昇しましたが、これは
異次元の金融緩和と日銀のETF(上場投資信託)購入、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式投資によるものです。要するに
日銀と年金によって株価をかさ上げしているだけです。
もし
日銀とGPIFが株価を買い支えることをやめれば、株価は暴落してしまうので、もはや後には引けません。 GDPもかさ上げされています。野党はGDPかさ上げ疑惑を国会で追及し、私も『
国家の統計破壊』(インターナショナル新書)などで批判しましたが、2016年12月に内閣府がGDPの算出方法を変更し、それにともない1994年以降のGDPをすべて改定したことで、GDPが大幅にかさ上げされたのです。
そういう意味では、
アベノミクスの本質は「かさ上げ」です。アベノミクスはシークレットブーツを履きながら「私は身長が伸びた」と言っているのと変わらないのです。私たちはそのことをしっかりと認識する必要があります。
(聞き手・構成 中村友哉)
明石順平(Twitter ID:
@junpeiakashi)
あかしじゅんぺい●弁護士。1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業後、現職。主に労働事件、消費者被害事件を担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。ブログ「
モノシリンの3分でまとめるモノシリ話」管理人