医師も驚いた! 18℃以上の暖かい家が高血圧を改善する

暖かい家イメージ

Smit / PIXTA(ピクスタ)

 住まいの室温の変化は、私たちの想像以上に健康に大きな影響を及ぼしています。 「冬に室温が低いと、高血圧や夜間頻尿、心臓や脳に関わる病気などを発症するリスクが高まる」 「冬でも暖かい家に住めば、そうした疾病が改善する」  こうしたことが、国土交通省が関わる大規模調査*から明らかになってきました。 〈*住宅の断熱化と居住者の健康影響に関する全国調査(2014年度〜2019年度)〉

断熱改修後に高血圧が大きく改善

 調査は、断熱改修をした住宅に暮らす4000人以上の住人を対象に、改修前と改修後の健康状態の変化を5年間にわたって比較したものです。  その中で特に顕著だったのが、高血圧の改善効果です。性別や年齢、肥満の度合いなど条件を揃えて比較した結果、断熱改修後には血圧が平均3.5mmHg下がるという結果が出ました。この3.5mmHgという数字にはどのような意味があるのでしょうか?  一般的に高血圧の人は、脳卒中や心筋梗塞など深刻な病気にかかりやすくなるとされています。そこで厚生労働省は、40歳以上の国民の最高血圧を年間で平均4.2mmHg下げることを目標に掲げています(厚生労働省「健康日本21」の目標値より)。  そして目標を達成できれば、脳卒中による死亡者を年間1万人、心筋梗塞による死亡者を年間5000人減らせるとしています。  これまで血圧を下げる対策として、減塩や減量、適度な運動、禁煙や節酒などが推奨されてきました*。しかし断熱や暖房によって室温を上げることは「科学的根拠が不十分」として、重視されてきませんでした。ところが、この調査結果により断熱改修で大きな効果が得られる可能性が出てきたのです。 〈*日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン」で「強い科学的根拠があり行うよう強く勧められる」推奨グレードAとされているもの)〉
スマートウェルネス住宅等推進調査委員会

スマートウェルネス住宅等推進調査委員会 研究企画委員会 調査・解析小委員会 2019.2.1(抜粋・編集版)より

 調査解析小委員会の委員長を務めた伊香賀俊治教授(慶應義塾大学理工学部)は、次のように言います。 「これまでは食生活やライフスタイルの変更などあらゆることを総合して、最終的に血圧を4.2mmHg下げることを目指してきました。ところが調査の結果、住環境を変えるだけで3.5mmHgも下がることがわかりました。これには、調査に参加した医師の方たちも驚いていました。これを機に、住まいを暖かくする大切さが見直されればよいと思います」
伊香賀俊治教授

調査委員会の幹事を務めた慶応義塾大学の伊香賀俊治教授

WHOの推奨温度は各部屋18℃以上

 寒い家、暖かい家というのは、具体的に室温が何度と考えればよいのでしょうか? 伊香賀教授らが、高知県梼原町で約1100人の住人を対象に10年間行なった調査によると、室温18℃未満の家に住む人が高血圧を発症するリスクは、18℃以上の家に住む人に比べて6.7倍も多かったという結果が出ています。
JST科学技術振興機構

JST科学技術振興機構「健康長寿を実現する住まいとコミュニティの創造(伊香賀俊治・星旦二・安藤真太朗)」社会実証事業より抜粋

 18℃というのはリビングの温度だけではなく、脱衣所やトイレを含めて全室が18℃という意味です。日本では、「冬の脱衣所やトイレが寒いのは当たり前」と考えられがちですが、世界の常識はまったく異なります。  2018年に世界保健機構(WHO)は、冬の住宅で健康を守るための室温として、最低でも全室「18℃以上」あるべきという強い勧告を出しました。そしてその対策として、新築時や改修時に家を断熱することを推奨しています。  なお室温18℃は全年齢層が対象で、小児や高齢者にはさらに高い21℃などの室温が推奨されています。WHO勧告の根拠の一つとなったイギリス公衆衛生庁「イングランド防寒計画」によると、18℃以下では血圧上昇や循環器系疾患、16℃以下では呼吸器系疾患に影響する恐れがあり、さらに12℃以下では心血管リスクが高まるとされています。
住宅と健康に関するガイドライン

世界保健機関(WHO)が2018年11月に発行した『住宅と健康に関するガイドライン』

 イギリスに限らず多くの先進国では、家を暖かくすることが病気を減らすという認識のもと、健康政策の中に住宅政策が入れられています。  しかし日本では、健康と住まいの関係が重視されてきませんでした。そのため、多くの既存住宅で脱衣所やトイレ、廊下などの温度が18℃を下回っている現状があります。  とはいえ、断熱されていない状態のまま、家全体を暖房しようとすればかなりの光熱費がかかってしまいます。そこで重要になってくるのが断熱改修です。
次のページ
「断熱」だけで健康に大ベネフィットが!
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会