大抵の場合、この説明をすると「なるほど」「そう言われれば、そうですね」というリアクションになります。しかし、この説明に実感を抱けない方々に遭遇します。
「いやいや、うちの上司は眉間にしわを寄せていつも怒っている。会議中、理解できない説明を聞くと、眉間にしわを寄せ怒る。」
その上司、
ブラック上司の可能性ありです。もちろん、その上司の方も熟考することはあるわけですが、
熟考すべき場面ですぐにイライラしてしまう性格である可能性が考えられます。そんな上司の元で働く部下は、コミュニケーション戦略として、眉間のしわを全て怒りのシグナルととらえ、怒りを治める危機回避的なアプローチになるのではないかと想像できます。
眉間のしわに対して、質問を促す、間を置く、丁寧に説明し治すという熟考に沿ったアプローチをとると場合によってはコミュニケーションが終わるまでに時間がかかります。もし上司が怒っていたならば、こうした「グズグズ」した対応は上司の怒りに油を注ぐことになります。そこで眉間のしわを見たら、怒りと予防的に判断し、謝罪やご機嫌取りなどのなだめ行動を取り、怒りの増大を回避しようとするのだと思われます。
ブラック上司の眉間のしわに怒りを読みとり、そのたびにビクビクするといった状態は精神衛生上よくありません。しかし、そうした上司がいる環境で生きていくために部下に出来得る悲しい戦略なのかも知れません。
この段階では怒りに恐怖を感じているのですが、さらに重症化すると怒りに何も感じなくなり、ロボット化するのではないかと懸念します。
この怒り表情の画像を観て、どんな感情を抱くだろうか。
怒り表情を見れば、普通なら恐怖感を抱きます。
しかし、首をかしげ、「何でしょうかね」「上司がこうした顔をしていても、特に何も感じませんね」という方がいます。常にイライラしている上司にビクビクしていたら精神が持ちません。そこで、上司の眉間のしわには自動的に上司の指示に従うという行動、つまり、上司の指示や命令に一旦立ち止まり、自分で考えたり、自分の想いを持ったりしない行動がその方にとっての適応行動になってしまった可能性が考えられます。
こうした「異常」ですが、目下、科学的に検証されているものではなく、ここ数年間の観察を通じて私が直観的に感じてきたことです*。仕事で自社以外の職場の日常を垣間見る機会があるとき、怒りを現すことがふさわしくない場面で、部下に対してイライラをぶつける上司に出くわします。そんな部下の方々に、眉間のしわの話をしても的を得ず、怒り表情画像に対しても無頓着なことに気付いたのです。
いかがでしょうか。みなさんは本日の二つの表情画像にどんな感覚を抱かれたでしょうか。
「何も感じない」という方は、自分の本当の感じ方を回復する手当が必要かも知れません。
上司という立場にある方は、部下の感情や認知の捉え方に不可逆的な影響を日々与え続けている可能性があることを知り、目に見える部下の職務管理だけでなく、目に見えずらい部下の感情をも管理しているという自覚を持ち、日々の言動に意識的になって頂きたいと思います。
<*性格・行動傾向と表情の誤認識との関係はこれまで様々に研究されています。例えば、非行少年は脅威度が低い表情を高いと誤認識します。笑われ恐怖症の人は幸福表情に悪意を読みとります。社交不安障害の人は脅威刺激から目を逸らすことで表情誤認をしている可能性が指摘されます。新しい環境に溶け込めない人は怒りと嫌悪表情に鈍感であることなどがわかっています>
※記事内の表情画像の権利は、株式会社空気を読むを科学する研究所に帰属します。無断転載を禁じます。
◆清水建二の微表情学第91回
<文・画像提供/清水建二(しみずけんじ)>