ノーベル平和賞を自分の意志で辞退した人物は、これまでに1人だけいる。ベトナムの革命家、政治家である
レ・ドゥク・トだ。彼はアメリカのヘンリー・キッシンジャーと共にベトナム戦争を終結に導き、その功績でノーベル平和賞を授与されることになったが、辞退した。彼はその理由を問われ、このように答えた―――「
ベトナムにはまだ平和は訪れていない」。
気候変動問題に目立った進展が見られない今、やはりグレタさんもノーベル平和賞を辞退することになるだろうか。それとも、今回の“大報道”に懲り、賞を受ける判断をするだろうか。
ノーベル賞の歴史には、受賞を辞退しようと考えていたが、知人の説得により渋々ながら賞を受けることにした、という人物も存在する。高名な物理学者
リチャード・ファインマンである。1965年、彼は「量子電磁力学の基礎」についての偉大な成果で、日本の朝永振一郎、米国のジュリアン・S・シュウィンガーと共にノーベル物理学賞を受賞した。
受賞の知らせが来た時、ファインマンは『タイム』誌の記者に相談し、賞を受けずに済ませる方法はないか尋ねた。ファインマンは権威を嫌っていたし、それに、ノーベル賞を受賞した途端に生活が一変してしまう可能性に不安を覚えたのだ。その記者はこう答えた。
「そんなことをすれば、黙っておとなしく賞をもらうよりもっとややこしいことになりますよ」(『
ご冗談でしょう、ファインマンさん 下巻』(翻訳 大貫昌子・岩波書店刊)より
結果、ファインマンはノーベル物理学賞を受けることにした。
グレタさんにとって最も参考になるのは、このファインマンのケースなのではないだろうか(本当に大きなお世話だ)。
<文/井田 真人>