第4次安倍再改造内閣発足以来、鈴木エイト氏と私は複数のメディアでこの問題についてコメントをしたり自ら記事を書いたりしてきた。それらについてのネット上の反応などを眺めていると、「信仰の自由」や「政教分離」に言及するものも散見された。
注意したいのは、
閣僚その他の政治家とカルト集団との関わりを示すこれらの情報は、必ずしも個々の政治家が統一教会の信者であることを意味しないという点だ。むしろそのようなケースのほうが少ないかもしれない。ここで指摘しているのは、
国会議員が統一教会のイベントに参加し箔付けに利用されたり、霊感商法や偽装勧誘で問題視されている反社会的な宗教団体やその関連団体から寄付を受けたり会費を支払ったりしているという問題だ。
もちろん、国会議員が反社会的な宗教団体の構成員であるなら、それはそれで問題だ。仮に信者だと判明した場合にはそういった批判もありうるが、さしあたってここで指摘しているのはそういうことではない。つまり
個人の信仰の自由とは無関係だ。
政教分離についてはもう少しややこしいが、これも
国会議員が統一教会と付き合いがあるというだけで即アウトとも言い切れない。そもそも統一教会かと関わりを持つ国会議員は他の宗教団体とも関わりを持っているケースが多く、統一教会だけを優遇しているとは言いにくい。また宗教団体が政治活動を行うこと自体を否定することもできないし、政治家が宗教団体のイベントに顔を出すことは一切許されないとも言えないだろう。
政教分離原則との兼ね合いは、
宗教的な価値観が政権に反映されている具体的な側面について批判的に見ていく必要がある。
単にイベントに参加したという事実だけで判断できるわけではない。
当然、統一教会についても同様だ。ここで列挙したような情報は、政教分離にからむ問題を議論する上でも参考になる事実の一つにはなるかもしれない。しかし飽くまでもその程度だ。これだけで政教分離について議論するのは雑すぎるので、私自身はあえて踏み込まない。
もともと鈴木氏や私が安倍内閣と統一教会に言及しているのは、政教分離原則について云々するためではない。
霊感商法などで社会的に問題視されている宗教団体に政治家が関わること自体に問題があるという、政教分離原則以前の問題を示すためだ。
もうひとつ、ネット上での反応で目についたのが、「
嫌韓政権である安倍政権が、なぜ韓国のカルトと手を組んでいるのか」というたぐいの皮肉や疑問の声だ。
確かにこれは皮肉の一つも言いたくなる構図だし、「なぜ?」と疑問を持つ人がいるのも無理はない。しかし、こうなっている理由はシンプルだ。
たとえば『日本会議の研究』の著者である菅野完氏は常々、日本会議の行動原理を「
左翼が嫌い」という言葉で説明している。
たとえば日本会議は、生長の家出身者のほか神社本庁、霊友会、佛所護念会、キリストの幕屋など様々な宗教団体の関係者による寄り合い所対だ。教義はそれぞれ違う。神道系、仏教系、キリスト教系と言った調子で、全く別のカテゴリの宗教同士が寄り合っている。その
最大の共通項が「左翼が嫌い」というわけだ。
「左翼が嫌い」という点では統一教会も同様だ。統一教会は韓国発祥で教祖・文鮮明は韓国人。日本を敵視するなど、ネトウヨなら「反日」と叫んで怒り狂ってもおかしくない言葉も残している。しかし統一教会は日本に上陸して間もない1960年代から
「国際勝共連合」を組織し、反共運動を展開してきた。その流れで保守運動と連携し、現在も続いている。
韓国のカルトが安倍政権と手を組む。是非は別として、
日本の保守運動の実情を考えれば特段の不自然さはない。
それどころか日韓関係が深刻に悪化しているいま、統一教会と関わりは政治家たちから「日韓友好」の一環として正当化されている面もある。
先日、鈴木エイト氏が「
統一教会イベント、新たな来賓政治家が判明、来賓国会議員数水増し疑惑も<政界宗教汚染〜安倍政権と問題教団の歪な共存関係・第20回>」としてリポートした統一教会イベント。ここでは、大村秀章・愛知県知事が祝電で「混迷する東アジア情勢」に言及。挨拶に立った原田義昭・前環境大臣や工藤彰三・衆議院議員らも日韓関係悪化に言及。その上で、
日韓友好イベントとしてこの統一教会イベントを称賛した。
こんな調子だから、自民党系の政治家たちにとって統一教会と関わることに問題は感じていないのだろう。しかし統一教会を「韓国なのに」「韓国だから」という目で見すぎると、前述の皮肉的な構図に翻弄されてしまうし、
「日韓友好」で誤魔化す政治家の言説に惑わされることになりかねない。
本来、
「カルト問題」に国境も国籍も関係ない。どこの国からやってきた団体であろうが日本で生まれた団体であろうが、人々に害をなすカルトは所詮カルトだ。そして、それに
加担する政治家はカルトの手先である。そう考えれば、さして複雑な問題ではない。
<取材・文・図版/藤倉善郎>