萩生田文科相の「身の丈」発言、形だけの謝罪・撤回だけで終わらせず大学入試改革の本質的な問題点追及を

主導した安西・元慶応塾長とベネッセグループが結託?

 英語の民間試験導入においては、テストの公平性が犠牲になる影で、民間の事業者が利益を得る構図になっていることも指摘しておきたい。  ベネッセグループは、民間試験の一つに指定されている「GTEC」を運営。関連する教材や公式のガイドブックも販売している。さらにベネッセホールディングスの子会社である「学力評価研究機構」は、共通テストに導入される記述式の採点を約62億円で受託している。  こうした中、ノンフィクション作家の広野真嗣氏は、利益相反を指摘する。(参照:「大学入試改革の旗振り役 慶應元塾長に利益相反疑惑を直撃」)民間試験の導入を主導した元慶應義塾大学塾長の安西祐一郎氏が、ベネッセとともにGTECを共催する「進学基準研究機構(CEES)」の評議員になっているという。  加えて、同機構の理事長は、文部事務次官を務めた佐藤禎一氏だ。ベネッセは、文科省が約50億円の予算を投じる「全国学力学習状況調査」をこの5年間毎年落札してもいる。広野氏は、「『民間試験導入』でベネッセは新市場を、導入を主導した安西氏はポストと報酬を、文科省は新たな天下り先をそれぞれ手に入れる──そんな構図が見えてくる」と批判している。

教育以外の領域でも疑われる利権の構図

 こうした利権構造は、人材派遣や水道民営化を巡っても指摘され続けてきた。水道民営化は、すでに導入されている諸外国で、料金の高騰や水質悪化を招いており、根強い批判がある。この水道民営化を含め、官民連携を推進する「民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)」にフランスの水メジャー・ヴェオリアの社員が加わっていたことがわかっている。  同社は実際に、下水道のコンセッション契約を決めた静岡県浜松市と契約しており、利権化している疑いが強い。(水道事業に民間参入を促そうしているのは誰なのか。内閣府PFI推進室を巡る利権の構造)  教育や水道といったサービスを市場に開放し、民間の事業者が利益を得る。その一方で公共性が掘り崩されているのならば、由々しき事態が進行していると考えざるを得ない。  例によって「そう受け止める人もいた」というお決まりの言葉とともに「形だけの謝罪・撤回」をした萩生田大臣。また、メディアも「失言」程度の認識で報道をしている。  問題の本質は制度自体に格差を固定化する設計になっている点だ。野党及び有権者は、そこを見誤らず、単なる「失言」騒動として終わらせてはいけない。 <文/HBO編集部>
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