ネットの情報で自宅特定……。SNS時代のストーカー対策はこんなところにご用心

瞳に映った景色

LhcCoutinho via Pixabay

SNSの解析と待ち伏せで、自宅を特定された事件

 10月の中旬に、ストーカーがアイドル活動をする女性の自宅を特定したというニュースが流れてきた(BBCニュース)。特徴的なのは、インターネットに投稿した顔写真の瞳に映っていた景色から、駅を特定したと供述していたところだ。ネットでは、そういうことができるんだという驚きとともに、特徴的な建物が映っていれば可能なのではという声が見られた。  瞳に映る景色が役に立つのかという声もあるだろう。2年前だが、瞳に映り込んだ容疑者が捕まったという事件があった。2017年の徳島「被害者の瞳に容疑者映る 県警 スマホ画像解析」というニュースだ。以下、少し引用してみよう。 ”県警によると、写真は被害者の顔を至近距離で撮ったもの。被害者の瞳の中に白っぽい服を着た人影が浮かんでいることに捜査員が気付き、県警鑑識課に解析を依頼した。  顔は暗くて肉眼では判別できなかったものの、画像処理ソフトで補正すると、スマホを構える容疑者や髪の生え際、服装、背後の建物の様子がはっきり分かるようになり、容疑の裏付けや撮影場所の特定につながった”  スマートフォンで撮影した顔写真の瞳に、容疑者や撮影現場が映り込んでいたことから特定に繋がったというものだ。

瞳に映る景色のサイズを計算

 それでは、瞳に映る景色のサイズは、どの程度のものなのだろうか。少し計算してみよう。最新の iPhone である iPhone 11 のカメラの画素数は1200万画素だ(価格.comマガジン)。これは、縦向きの画像で、縦4608ドット、横2592ドット程度に相当する。  次に、メイクの講座から、顔の中でのおおよその瞳の比率を調べてみる(美容雑誌『VOCE』公式サイト)。顔の横幅に対して、1/10程度のようだ。実際に正面向きの顔写真から調べてみたが、おおよそ1/10だった。  そのことから、縦向きの写真で顔を画面いっぱいに撮影したとして、瞳の中に横サイズで260ドット程度の情報が含まれることになる。  最近よく見る、パソコン用27インチディスプレイでのサイズを確認してみよう。一般的な27インチのディスプレイは、横1920ピクセル、縦1080ピクセルだ。そして画素密度は82ppiだ。  このディスプレイでは、260ドットの実サイズは8cmになる。だいたいのサイズ感が分かるだろうか。これぐらいの大きさの画像が得られれば、色々と分かることも多い。  ちなみに、SNSへの画像投稿時に、1000ドット程度に縮小されていたとする。その場合は、1000×1/10 で、瞳のサイズは100ドットになる。上記のディスプレイ上でのサイズは3.1cmになる。地元の特徴的な建物が写っていれば「ああ、あそこの駅だな」ぐらい分かりそうなサイズだ。

SNSや写真から分かる様々なこと

 SNSや写真は個人情報の宝庫だ。それらから得られる情報は多い。学生ならば学校を書いている人もいるだろう。たとえ書いていなくても、制服の写真があれば学校を特定されてしまう。テストの日付が分かれば、その学校に通っている他の人のSNSから推測されてしまうだろう。  社会人で職場を書いている人もいるかもしれない。たとえ書いていなくても、日々のランチに利用した店から、職場がどのエリアにあるか特定されてしまう。また仕事の内容から、企業を絞り込まれてしまう危険性もある。  居住地域を推定できる情報は多い。地域のイベントに参加したことを書けば、その近隣に住んでいるのだと筒抜けになる。公園や商業施設に行った報告でも同じだ。  直接的に場所の情報を書いていなくても、地域が推定されてしまう要素はある。たとえば、天気についての情報がそうだ。各地域の日時と天気は公開情報だ。そして日本全国でどの天気だったかは違う。天気について何度も書いていれば、全てが一致する地域はどんどん狭められてしまう。  また、虹が出たといったピンポイントの情報があれば、一気に範囲が限定される。時間を指定してSNSで「虹」という単語を検索すれば、どの地域で虹が出ていたかを知ることができるからだ。  文章に地域の手掛かりを残さない。そのように気を付けていても、文章以外の写真から住所の手掛かりを掴まれてしまうこともある。よくあるのが街の写真だ。店の看板などの文字があれば、その名前を検索すれば撮影場所が割り出されてしまう。電柱などに住所の番地があれば、話はもっと早い。マンホールなどの写真も、地域によって違いがあるために、地域を特定されてしまうリスクになる。  最近は、Google のストリートビューというものがある。看板などである程度地域を特定したあと、ストリートビューでその周辺を動き回る。そうすれば、写真をどの位置から撮ったのか推定されてしまう。同じ景色を探すことができるからだ。  たとえ室内であっても油断はできない。窓から見える景色から、その部屋がどこかを特定できる。これは、SNSなどである程度地域が限定されているときに、特に使われやすい要素だ。  窓の外の景色の中で、特徴的なビル(たいていは背の高いビル)をいくつか特定する。そして、それらが写真と同じ配置になる場所を、Google マップで探す。また Google Earth なら、立体表示も可能なので、似た配置になる場所を比較的容易に探すことができる。実際に探している様子の記事もある(参照:GIGAZINE)。  SNSの投稿時間を分析することで、起床時間、昼休みの時間、就寝時間も推定できる。そこから、おおよその勤務形態が分かる。また、SNSの投稿内容から、通勤通学があるのか、あるならどれぐらいの移動時間なのかを推定することもできる。こうした情報が得られれば、居住地域特定のヒントになる。  ひとつの情報だけでは情報を特定できなくても、複数の情報を掛け合わせれば絞り込まれることは容易になってしまう。普通の人が気にしない情報でも、相手が暮らしている場所を知りたがっている人間にとっては貴重な情報なのだ。  それに、本気で住所を特定しようとしている人間なら、地域を特定したあと、張り込みに行く可能性もある。通勤通学時間と、おおよその場所が分かれば、毎日通って探すという選択肢があるからだ。  さらに、その個人の情報を調べたければ、古典的な方法であるゴミ漁りをする手もある。捨てられたゴミを回収して、個人情報を抜き取るのだ。そうすれば、さらに多くの情報が筒抜けになってしまう。

承認要求とノーガードの時代

 現在は、承認要求の時代だ。SNSで自分の情報を投稿して、周囲からイイネをもらうのが当たり前になっている。投稿した情報が、限られた仲間にだけ届くのならば問題は小さい。しかし、それらが世界に向けて公開されているので問題は大きくなる。悪意を持った人間が利用すれば、多くの情報を引き出すことができるからだ。  いまさらSNSを世界からなくすわけにはいかない。そのため、住所が特定される事件は今後も増えるだろう。情報的なノーガードになりやすい時代、リアル社会のセキュリティについて、もっと考えていく必要があると思う。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。
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