横行するフリーランスへのハラスメント。時代に追いついていない法整備という現実

何がハラスメントに当たるのか理解しておくことが必要

「パワハラやセクハラといった言葉はみなが知っている。しかし、自身がパワハラやセクハラの加害者になってしまったときに、どういうリスクがあるのか、どういう扱いを受けるのかを、自分の防衛として知っておくべき。 民法上の不法行為ということで損害賠償請求をされる恐れや、場合によっては刑事責任を追及される恐れもありますが、それを知らないということは、自分のリスクを正しく把握できていないということです。被害者も自分が被害にあったときには、法的にどういう主張をすることができるのかを知っておくと良いと思います」  松井弁護士は、会社側とフリーランス側といった双方の法的リテラシーを高めることを訴える。立場の強い側は、知ることでハラスメント行為自体の軽減に繋がるし、被害を受ける側はハラスメント行為を立証できれば、民法上の不法行為として、相手に損害賠償請求を行うことができる。  自分が今置かれている状況に、法律がどのように適用されていくのかを知っていることが鍵となっていく。法律家に相談を受けるときには、事が起きた後になるため、制度が整備されていない現代の日本では、自分の知識を最初の防衛戦として活用することが必須となる。 「パワハラとかセクハラという言葉は多くの方が知っていますが、世間の多くの人からすると『最近パワハラ厳しくなってきたね』という程度の感覚で、実際にパワハラがあったときに法律上どのような請求ができるのか、リスクを負うのかということをきちんと把握できていないように思われます」

財界にとって、「使い捨てしやすい」フリーランス

「気になる点は、経済界がパワハラ規制の法制化に反対しているようであること。訴訟リスクなどが理由とされていますが、会社側の立場としてはフリーランスを使いにくくなるということもあるのかもしれません。現在の日本の労働法では、労働契約を締結した従業員を解雇することは難しい。しかし、フリーランスとの契約を解除することにはそれほどの困難は伴いません。会社側の立場に立って思いを浮かべてみたときに、外注することの何が良いって、『契約を切りやすい』っていうことではないでしょうか」   今の日本の労働法では、不完全な箇所もあるが、まだまだ正規労働者は保護されており、不当解雇であれば雇用主である会社側を訴えることもできる。  業務委託契約では、最低賃金や労働時間の縛りがないため、都合の良い存在として”使われる”ケースが生まれてしまう。先述したように、委任契約では発注者側はいつでも解除できる。これを解雇と同じ基準で取り締まることになれば、会社側としてはフリーランスの使い勝手が悪くなる。雇用したほうがいいといった話になり、フリーランスの需要を減らすことにも繋がる。  1970年ごろにできた終身雇用制度や新卒一括採用制度といった従来の日本雇用の枠組みが、令和になった今でも日本文化に根付いており、雇用者を守る法律は整備されていてもフリーランスといった新しい業務形態には対応できていないのだ。 「解雇の有効性は厳しく判断される一方で、フリーランスに対する保護は追いついていません。最初に申し上げた通り、『そこは対等な関係であるべきでしょ』とか『あなたの営業努力が足りないんじゃないの?』という考えが根底にあるのかも。実際には力関係に差があるという現実をきちんと見つめて、法整備を検討していく必要があります」 <取材協力/松井剛> 早稲田大学大学院法務研究科修了。共著に『財産分与や戸籍・親権の解決策がきちんとわかる 離婚すると決めたら読む本』(日本実業出版社)がある。 <取材・文/板垣聡旨>
ジャーナリスト。ミレニアル世代の社会問題に興味がある。ネットメディアを中心に、記事の寄稿・取材協力を行っている。
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