捜査当局を及び腰にする、関西電力と関西検察OBの「深い関係」<郷原信郎氏>

あらゆる法令を使って刑事罰を科せ

―― 実際に関電幹部たちに刑事罰を科すのは難しいのでしょうか。 郷原:関電の役員たちが森山氏から金品を受領した行為は、会社法967条の「会社取締役の収賄罪」にあたる可能性があります。会社法967条は会社取締役、監査役等について「その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」と規定しています。そのため、同罪の成否に関しては、「財産上の利益の収受」と「不正の請託」の二つの成立要件について考えてみる必要があります。  まず「財産上の利益の収受」があったか否かに関しては、関電側は会見で「金品の受け取りを強く拒んだが、返却困難な状況だったので、返却の機会をうかがいながら各人の管理下で保管していた」と説明しています。しかし、各人が個人として受領する気がなかったのであれば、会社に申告し、会社に保管してもらえばよかったはずです。各人の管理下で保管していたということは、財産上の利益を収受する意思があったということです。だからこそ彼らは個人の所得として修正申告せざるを得なかったのです。  他方、「不正の請託」については、関電の発注が競争性・公正性の確保というルールに則って行われたかどうかを見る必要があります。もし関電の発注にあたって森山氏の関連会社に過大な利益が上がるような措置がとられていれば、発注の「不正」があったと評価する余地が出てきます。  報道によると、森山氏から関電幹部にわたった3億円以上に及ぶ金品の原資には、原発関連工事を請け負う吉田開発から森山氏へ支払われた手数料3億円が用いられた疑いがあります。また、森山氏は関電高浜原発の警備を請け負う高浜町の会社の役員を、会社設立当初から務めていました。さらに、森山氏は助役を退職した数年後から、同原発のメンテナンスを担う兵庫県高砂市の会社の相談役にも就任していました。  こうした報道を見る限り、原発の発注手続きにはかなり問題があったのではないかと推測できます。検察がここを解明していけば、会社法の収賄罪が成立する余地があると思います。たとえ最終的に起訴に至らなかったとしても、金品受領問題の犯罪性・悪質性に応じて必要な捜査を行うことをためらう理由はありません。きちんと捜査を行った上で不起訴となるなら、世の中も納得するはずです。大阪地検特捜部は寝ている場合ではないのです。きちんと捜査すべきです。 ―― 菅原一秀経済産業相は関電を「言語道断、厳正に処する」と批判しています。安倍政権がこの問題に積極的に関わる可能性はありませんか。 郷原:菅原大臣は関電を厳しく批判していますが、経産省と電力会社の関係を考えると、安倍政権がどこまで本気かはわかりません。実際、関電が森山氏から金品を受領していたことを1年も隠蔽していたにもかかわらず、経産省がその隠蔽を厳しく責めている様子はありません。 ―― このまま関電の幹部たちが何事もなかったかのごとく居座り続けるなら、関電だけでなく検察への不信感も再び高まると思います。 郷原:現在の日本では特定のポストに権力が集中してしまっているせいか、検察内でも上層部になびくような構造が生まれてしまっています。しかし、今回のようなことがまかり通るなら、モラルの根本が崩壊してしまいます。  そうした事態を避けるためにも、検察はあらゆる法令を使って刑事罰を科すことを検討すべきです。関西検察が動けないなら、最高検が主導権を発揮し、東京の特捜部が捜査に乗り出すべきです。検察官たちはしっかりとモラルを持ち、自らの良心に従って職務に取り組んでもらいたいと思います。 (10月7日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉) ごうはらのぶお●’55年生まれ。東京大学理学部卒業後、民間会社を経て、1983年検事任官。東京地検、長崎地検次席検事、法務総合研究所総括研究官等を経て、2006年退官。「法令遵守」からの脱却、「社会的要請への適応」としてのコンプライアンスの視点から、様々な分野の問題に斬り込む
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2019年11月号

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特集3【アメリカの代弁者・小泉進次郎】
特別対談【危機に直面する保守政治】
自民党衆議院議員・石破茂
東京工業大学教授・中島岳志

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