ある企業や環境に依存すると、自分の意思とは無関係に、ある日使用できなくなる可能性がある。こうした問題は、アドビのような独占企業のソフトを使うときだけではない。もう少し小さな問題は、いたるところで起きている。
あるサービスや商品を使っている際、他のものに変えるのには時間や手間が掛かる。導入が面倒だったり、使い方を覚えたり、仕事のやり方を変えたりする必要も生じる。ソフトウェアなら、他社との連携のために手間が掛かったり、使える人を雇ったり、育てたりするコストがかかったりもする。そうしたスイッチングコストがあるために、切り替えが困難になる状態をロックインと呼ぶ。(参照:
IT用語辞典 e-Words)。
こうしたロックインは、ソフトウェアを開発する際にも、頭の痛い問題だ。サーバーやクラウドサービスなどを利用して開発している際、ロックイン状態になっていると、値上げされても、そのままお金を払わないといけない。また、サービスが改悪されても、気軽に出て行けなくなってしまう。
可能ならば特定の環境に依存しないように開発したい。しかしサービスを提供する側は、強く依存して欲しい。そうした駆け引きが、サービス提供側と利用者側でおこなわれることになる。
こうした依存への脱却を考えるのは、ソフトウェアの開発現場だけではない。一時期、自治体で、脱 Office が流行ったことがある。マイクロソフトの Office を使うのではなく、OpenOffice.org や Libre Office を使うといったことがおこなわれた。また、過激なところでは、Windows ではなく、Linux を使うことが議論されたりもした。
しかし、市場が独占状態になった環境では、こうした依存からの脱却は難しい。標準的な方法以外を利用すると、面倒事を多く抱えてしまうことになる。
私も、プログラムを書いていて、似たようなライブラリが複数ある場合、世の中で多く利用されているものを選ぶ。なぜならば、その方が、使い方などの文書や、トラブルが起きた際の解決方法が、多く共有されているからだ。市場を支配していないソフトウェアやサービスを使うということは、そうした面倒事を、全て自分で調べて解決しないといけないことを意味している。
メジャーなソフトウェアを使うのは、仕事を効率的におこなうのには望ましい。しかし、一極集中すると有事の際に問題になる。みんなが1つのソフトばかりを使うと、代替ソフトがない状態が容易に発生するからだ。そして、クラウドサービスの場合は、ある瞬間に、即使えなくなるリスクを抱え込むことになる。
ソフトウェアやサービスが、ますますクラウド化する今、何らかの逃げ道を用意しておく必要性を、ベネズエラのニュースを見て強く感じた。
<文/柳井政和>