ユニークフェイス問題のパイオニアが語る、「今日まで、そして明日から」

iPhoneが出て、世界が変わった

―― 石井さんはサラリーマン時代に人前に出る営業マンをしていたそうですが… 石井:警戒心を抱かせず、相手の本音を聞き出すのは、初対面の人に話を聞く取材と同じでした。営業は基本的に無視される仕事なので、子どもの頃に無視されてたことを思い出し、嫌われるという点でも同じ。  相手の第一印象は、「ヘンな顔をしたやつが来た」。それでも、顔にあざのある僕が「どうもー」と入っていくと話を聞いてくれる。他の営業マンと違ってしつこくせず、「じゃあ帰ります」と言うと、「ちょっと待て」と。  そうやって車も太陽光発電も保険も売りました。自分なりの方法を模索していくと、日本社会のスタンダードなルールや常識に飲み込まれない方法を獲得し、自分の暮らしが成り立っていくんです。  時間単価に見合わないことは趣味だと割り切れるし、ユニークフェイス活動もそうであって結構。そういう構えでやっていくのも人間の営みとして正しいと、割り切りがしやすくなりましたね。 ―― 東京を離れてからの11年間、ユニークフェイス界隈は変化しましたか? 石井:マイフェイス・マイスタイル(※ユニークフェイス問題の解決を掲げる東京のNPO法人)が引き金になって、若い当事者がしゃべり始めたことは評価できる。スピーカーに育てた功績がある。変化が劇的にありえたのは、スマホとSNSの普及によるものが大きい。  僕が浜松に移住した後にiPhoneが出て、世界が変わった。当事者各自が自学自習していき、自分の好みの当事者とコミュニケーションをとれるようになり、自発的にセルフヘルプができるようになり、口唇口蓋裂友の会とか、医者が顧問の患者会などの古いタイプの組織にすがる必要がなくなった。  若手で期待している活動家は、和歌山在住の氏家志穂さん。彼女は2児の母親で、顔の半分に赤あざがあり、「あざと共に生きる会 Fu*clover~フクローバー」という団体で12年間も当事者支援を続けてます。でも、当事者の活動家は増えてません。外川浩子さん(※前述のNPOの代表)のようなサポーター的な活動家も、他にいません。  当事者が書いた本も数冊しかない。他のマイノリティの運動を見ると、20年もあれば、当事者の書いた本は数え切れないほど出てるのに。ユニークフェイス当事者はまだ語り始めたばかり。僕だけ書いていてもしょうがない。みんなもっと書いてほしい。

ユニークフェイス当事者は、まだ語り始めたばかり

―― ユニークフェイスの問題を解決するアクションに、希望はあるのでしょうか? 石井:LGBTなどの他のマイノリティがぶつかる壁は、ユニークフェイスにもいつか起こるでしょう。顔面差別的な就職裁判も、いじめ裁判も。そういう時は一緒に戦える人間になりたいと思う。ハッピーな人間は、ヤバい状況にある人を眺めてるだけで助けないから。日本社会にはノブレス・オブリージュの文化もないのでね。  僕は、ユニークフェイス研究者としての位置づけをしつつ、文章の力で社会にゆさぶりをかけていくことに集中していけば、残りの人生を無駄にしないでいられると思う。新たに法人化して活動することは考えてないです、今は。  個人の言葉の力を信じる原点に戻り、在野の研究者として本を書き、勉強会を作り続けていきます。もっとも、自分の顔の絵を自分で描いたり、アーティストに描いてもらうような自画像プロジェクトはやってみたいですね。当事者自身にアクションしてほしい気持ちは残っているので、自分の感情に正直に表現していきたい。  100年、200年のスパンでものを考えたい。まだこれからなんです。本もちゃんと売らないと、日本社会からユニークフェイス問題に関する関心なんて忘れ去られてしまいます。今の時代にフィットした言葉をもう一度作り直さなきゃいけない。

ユニークフェイスへの理解を広める活動を今後も継続

 石井さんは現在、『顔面漂流記』からの20年間の人生を描く本を来年出版するために執筆中。マイノリティから見た日本を生き抜く方法についての本も、企画を詰めてるところという。  こうした執筆以外に、川崎や横浜などで当事者交流会を開催してきたが、今年から当事者どうしが気軽に交流できる「ユニークフェイス・BAR」を新宿・歌舞伎町の「バーナカザキ」でも開催。今後は在野研究者のための読書会も川崎や横浜で開催予定だ。  10月25日には、高校内居場所カフェを運営するoffice ドーナツトーク代表・田中俊英さんと一緒に、川崎のシェアハウス MAZARIBAで「劣化するNPO」をテーマにトークライブを行う。非営利活動の困難を学ぶところから、ユニークフェイスの問題をめぐる新しい解決アクションに目覚める若い世代が生まれてくることを期待したい。 ●石井政之ブログユニークフェイス研究所 <取材・文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。 1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。 その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。 著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。
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