続いて行われたパネルディスカッションでは、未来を描く若手クリエイターが世界へ羽ばたくためにどうしていけば良いかというテーマのもと議論が交わされた。
デザインアワードで選出されたり、世に注目されるクリエイティブを生み出したりするには、アイデアの源泉が大切だ。登壇者らのように、世界で活躍するクリエイターは着眼点をどこに置き、アイデアのヒントを見つけているのだろうか。
小野直紀さん
まず語ったのはYOYデザイナーの小野氏。広告代理店にてクライアントのプロダクト開発をしていたが、課題解決のためにデザインをすることにつまらなさを感じ、知人クリエイターとともに世界最大級の見本市「ミラノサローネ」に出店した経緯を持つ。
「世の中へ出すために量産可能かどうかが大事。一方で、課題解決のためにデザインをしているわけではなく、
社会に対し『こういうものもあってもいいよね』という選択肢になるようなプロダクトを作るように意識している。星の数ほどある家具の中で、生活の中にどういうものがあった方がいいのかを考え、最終的にライフスタイルに浸透するものが作れたらという想いを持っている」(小野氏)
小野氏がデザインをする中で根底にあるのは、エイドリアン・フォーティーの著書「欲望のオブジェ―デザインと社会 1750‐1980」の中に書かれている「模倣」や「隠蔽」、「偶像」の考え方だという。
最新のテクノロジーのような、新しいものを全面的に出しても人の心は惹きつけられない。テクノロジーの部分を隠蔽し、既存のものに擬態させたり、模倣させたりし、かつ今まで見たこともないようなものに昇華させる。
このような過程を踏むことで、人が欲しくなるプロダクトが生まれるとのこと。
吉添裕人さん
他方、過去にLEXUSのデザインアワードにてグランプリ受賞経験のある空間デザイナーの吉添氏は、
「私の中で個人の作品は、美しい風景を見たいという人間の好奇心に正直でありたい。生きるという時間軸の中で出会った光景や記憶を辿っていきながら、アイデアの糸を紡いでいく。普段の仕事は完全に現実的だが、こと作品作りに関しては記憶と記憶を繋いだり、当たり前の出来事に感動したりすることで生まれるものを作品に落としていくプロセスを踏んでいる。自分が何に興味関心があり、何ができるのか。世の中と自分との特異点を見つけることが大切だと思う」
とひらめきではなく、日々生きる中で感じるものや過去に出会ったものを点と点で結んでいくことで、アイデアを昇華させていく過程について語った。
齋藤氏は、今でこそ都市開発や海外の多様なプロジェクトなど、大規模な仕事に携わるようになったが、それもある時に自分たちがやってきたことが認められ、やりたいことに時間やお金を使えるようになったからだという。
「若いうちは自分が一番だという誇りを持ってデザインするのも良いが、今求められているのは社会実装できるかどうか。若手はどうしてもワンオフ(ある目的のためだけに作るもの)に寄ってしまいがち。目の前のデザインも大切だが、時代の風を読むことも大切。全体俯瞰で見て、どういう風にしてデザインの力で社会実装していくのか。このように考えることができれば良いのでは。物を作るのと社会が繋がるのは想像しがたいが、ミクロとマクロの視点を両方持ち合わせて、デザインをしていくことが大切だろう」 (齋藤氏)
小野氏は海外のアワード出展の容易さについて触れ、まずは海外に出てみることの大切さを説いた。
「ミラノサローネは実は簡単に出展できる。あれこれ迷わず海外に飛び込んでみて、続けて見ることが大切。世界に挑むというモチベーションも大事だが、もっと気軽に出展してみて、世界に触れることで自分のデザインの追求や新たなシーズの発見に繋がる」(小野氏)
デザインアワードや大きな見本市に出品して受賞することになれば、頭角を表すチャンスになりうる。また、自分がやってきたことが認められることで、自分のデザインの専門性をもっと追求していこうというモチベーションにも繋がるだろう。
セッションの中で、ライゾマティクスの齋藤氏が「未来は明日の積み重ねでできている」と述べたように、日進月歩でデザインや自分の世界観を追求して、チャンスを掴むための行動を起こしていくと良いのではないだろうか。
<取材・文/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。