契約内容の見直しを拒絶、詐欺まがいの無断発注…… オーナーらがセブン‐イレブン・ジャパンを再び集団申告

オーナーの了解を得ない無断発注が起きる背景とは

 次の点に移ろう。先月の集団申告では、おでんをはじめとする「無断発注」がメディアで大きく取り上げられ話題になった。会見では実際に無断発注の被害に遭ったオーナーの口からこの件の詳細が語られた。 「セブンには発注といっても仮発注と本発注があるんです。仮発注では予め発注する商品の種類と数を入力しておきます。本発注ではこの仮発注で入力しておいた分を確定させるんですが、その際は一つ一つの商品をいちいち確認せずキーボードを連打して一気に完了させるのが慣習です。  無断発注というのは、仮発注の段階でOFCが店に来てこっちが入れるつもりのない商品を勝手に入力するんです。それをやられると普通は本発注で気付かなくて、商品が届いて初めて気付く。OFCには『あれーこんなに来ちゃいましたねー。じゃあ頑張って売りましょう!』とか言われる。私はたまたま本発注でウチの店でやるはずのないおでんが入っていておかしいぞと気付きましたが、気付かなくて確定させちゃった無断発注もありました」  しかし、これを問い詰められた時の本部社員の回答は驚くべきものだった。本発注ではなくて仮発注だから問題ない、というのだ。もちろん本部社員は本発注でオーナーが連打して一気に発注を確定させることも知りぬいた上でこう言っている。先ほどのオーナーはこれに対して「未遂であれば事件を起こしていないんだから罪はないんだ、と言っているのと同じ。ふざけた言い分だ」と怒りを露わにした。  無断発注の問題が社会的に問題とされるようになったのは最近だが、これは今に始まったことではない。会見では10年前に無断発注を行ったOFCがオーナーに書き送った「謝罪文」も公開され、「この件に関して、契約書上でも到底容認出来ない重大な過失であり、やってしまった事の重大さを真摯に受けとめ反省しています。大変申し訳ございませんでした」などと記されていた。  しかし今回の会見でより重要だと思われたのは次の点だ。同ユニオンは前回の申告で「おでん無断発注」がメディアで予想以上に大きく取り上げられてやや困惑したようだが、それをきっかけに詳しく検討してみたところ、これはセブン本部の組織としての体質にかかわる、深く根付いた問題として捉えなければいけないのではないか、と認識を新たにしたというのだ。  一体どういうことか。会見で公開されたとある店のOFC業務日報には次のように書かれていた。 「琥珀エビスが今週新規で推奨されておりますが、自店は導入されていない。アテンションで数回オーナーに直接コミュニケしてきているが、本日においても導入されない」  これは担当している店のオーナーが本部の推奨している商品を導入しないことを問題視した文書である。文章は次のように続く。 「エビス導入の背景(中略)●メーカー出荷50万ケース内10万ケースを7-11が押さえている」  つまり、本部が仕入数量を事前にメーカーとの間で契約してしまっており、その分をフランチャイズ加盟店に買ってもらわなければ困ると書かれているのだ。フランチャイズ加盟店は事業主ということになっており、今年3月に中央労働委員会がコンビニオーナーの団体交渉権を認めないとする判断を示したのもそれが理由だった。本部の義務は事業主である加盟店に仕入先を紹介することであり、勝手に数量契約を締結してそれを事業主に押し付ける権利などない。まして加盟店に仕入義務などない。  しかしこの文書に示されている通り、実際には本部がメーカーとの間で事前に契約を締結してしまい、オーナーがそれを押し付けられる形になっている。本部に対して団体交渉権を行使しようとすると「事業主だからその権利はない」と断られ、逆に事業主だから仕入商品は自分で決めるのだと言うとしつこく本部の「推奨」する商品を入れろと迫られる。この文書はコンビニオーナーがいかに弱い立場に置かれているのかを表していると同時に、コンビニ本部がオーナーに対する優越的な地位を都合よく振りかざす体質にどこまで深く毒されているのかが一目瞭然だ。

ユニオンはオーナーの月命日に申告を続けると意気込む

 今回の申告で提出する文書はもちろんこの一点だけではない。会見では山のような文書が用意されており、それだけで何本記事が書けるか分からないほどであった。  公取委との面談を終えた鎌倉玲司同ユニオン書記長は「これだけの量の決定的な証拠書類を公取委に毎月提出している組合は我々コンビニ関連ユニオンくらいだと思う。公取委は実態調査に踏み切ると発表したが、我々は集団申告を継続していく」と話した。  本部社員として長野の事務所で働いている河野委員長は今回の申告当日に来られなかったが、「11日は今年7月11日に亡くなった東日本橋1丁目店の齋藤敏雄オーナーの月命日だ。これからも11日に申告を行っていくので、全国のコンビニ関連労働者の方々に協力を呼びかけたい」と話した。  先日の台風の影響により、セブン‐イレブンでも首都圏・東海地方の約1000店が計画休業することになり、配送トラックも一部運休することになった。翌日からは各店舗で営業が再開されていったが、今回の休業では普段我々が当然のものだと思っているコンビニの「近くて便利」が、配送ドライバーや店舗従業員の日々の労働によって維持されている貴重なものであることを改めて意識せざるを得なくなったのではないだろうか。  コンビニを回しているのは上層部から降ってくる鶴の一声ではなく、現場で汗水垂らして働く従業員の労働という力だ。コンビニ関連ユニオンはそのような現実の力で会社を下から突き上げることによって、コンビニ業界を変革していこうとしている。 <取材・文/鈴木翔大>
早稲田大学在学。労働問題に関心を持ち、執筆活動を行う。
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