IPO延期、CEO退任で荒れるWeWork。日本法人社員を直撃してみた

WeWork 世界に500拠点以上のコワーキングスペースを構えるWeWorkが今、大きな苦境に立たされている。新規株式上場(IPO)を目前に控えていたのだが、ここに来て急遽延期することが決まり、さらに最高経営責任者(CEO)のアダム・ニューマン氏(以下アダム)が退任するといった、まさに青天の霹靂と言わんばかりの出来事が相次いだ。  一体、WeWorkに何が起きているのだろうか。そして、2018年初頭に日本へ上陸して以来、東京を中心に名古屋や大阪、福岡など地方都市圏に進出しているが、今後の日本市場への影響はあるのだろうか。

WeWorkとはどんな会社なのか?

 WeWorkはニューヨーク発祥のコワーキングスペースだ。2010年に最初のWeWorkをニューヨークのソーホー地区にオープンした。  ソーホーと言えば、ニューヨークの観光名所として知られる。5番街のような華やかさはないものの、小洒落たブティックやセレクトショップ、寛げるカフェなどが多く点在するエリアだ。  かつては倉庫街だったが、倉庫を拠点に芸術を生み出すアーティストらが集まるようになると、付近にはギャラリーやスタジオができ、独自のカルチャーが芽生えていった。  かの有名なバスキアやアンディ・ウォーホルといったアーティストも、ソーホーのギャラリーと所縁がある。倉庫街からアート溢れる芸術の街へ。このように推移してきた歴史がある中、近年では洗練された街並みが広がる観光地として、また、地元ニューヨーカーが気の知れる仲間と集う場所として栄えるようになった。  そんなソーホー地区にオープンしたWeWork。2004年にFacebook、2006年にTwitter、そして2008年にはAirbnbといった今や誰もが知るサービスが次々と産声を上げ、まさに次なる成功を夢見てスタートアップを創業しようとする機運が高まっていたのは間違いないだろう。  かくしてWeWorkは、ソーホーを皮切りに拠点をどんどん伸ばしていくことになる。といっても、不動産ビジネスは資金の元手がないと立ち行かなくなるため、創業者のアダム氏は手腕を利かし、資金調達を繰り返すことにより、ニューヨークのみならず世界中に拠点を増やしてきた。  まず、最初の資金調達先となったのは、TwitterやUberに早くから目をつけて投資をしていたBenchmark社だ。2012年に1700万ドルの資金調達に成功したWeWorkは、以降毎年ベンチャーキャピタルや投資家らから資金調達を実施するようになり、2017年にはソフトバンクがWeWorkに44億ドルもの資金を投資したのも話題になった。  現在では、世界100都市以上にWeWorkが点在しており、フリーランスや起業家、企業のイントレプレナーなど様々なビジネスマンがWeWorkという1つのコミュニティの中で働いている。今後の将来性や伸びしろが投資家から評価され、時価総額は5兆円に上るとまで言われていたのだ。  しかし、バランスシートやコーポレートガバナンス、事業モデルに対する懸念はWeWork躍進の裏で囁かれていた。  著しく過大評価なのではないか。WeWorkのビジネスモデルは長続きするのか。  このような不安は払拭されず、むしろ規模や名声が高まるに連れ不安は増していき、それが今回のIPO延期騒動に繋がったのではと考えられる。

”セックス・パーティ”の報道には「正直かなり引いている」

 今回の騒動が起きて以来、WeWorkの創業者であるアダム氏に対して様々な憶測が飛び交ったり、実態が暴露されたりしている。  中でも、アダム氏の特異な考えや行動を象徴するパーティ文化は、衝撃ともいうべきものだった。  セックスやドラッグまみれになりながら楽しむ、社員全員参加のキャンプ。テキーラが大量に出てくる社員総会。アダム氏が所有するプライベートジェット内でのドラッグパーティ…。  何かとパーティに結びつけて、日頃のハードシングスな仕事に対しての慰労の意味を込めて予算を割いてきたのだと思うが、さすがにやり過ぎではという声も聞かれていたという。  WeWorkの日本オフィスで働く社員に、今回の騒動の発端であるアダム氏の一連の奇行について訊いてみたところ、次のような回答をもらった。 「アダムには会ったことはないが、ニュースが伝えていることが正しいのであれば、その件は正直かなり引いている。ただ一方で、WeWorkをここまで大きくしたのも、彼の影響力が大きいので、功績とガバナンスの側面は切り離して評価している」  また、WeWorkがパーティー文化であることに対しては、 「パーティカルチャーの側面は多少あると思う。しかし、記事に挙げられているようなモラルのないパーティは一切ない。日本では、コンプライアンスに関するトレーニングを徹底してやっているので、従業員のモラルは高い。ましてや、コンプライアンス違反をするような社員の噂は聞いたことがない」 と答え、社内がパーティー文化であることは認めつつ、度を超えたような類のものは行っていないそうだ。  WeWorkでは度々、入居者主催でミートアップが開催されていることもあり、パーティーとゆかりのある企業体質なのかもしれない。
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社員は「問題なく黒字経営できる」と強気
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