宮本武蔵『五輪書』の中に、OODAループの思想が見られる
OODAループには、組織向けと個人向けがある。ベストセラーとなった組織向けの入門書が
『「すぐ決まる組織」のつくり方――OODAマネジメント』(フォレスト出版)。入江氏はこのほど、個人向け入門書として
『OODAループ思考 [入門]』(ダイヤモンド社)を上梓した。
同書では、宮本武蔵『五輪書』の「水の巻」にある「有構無構」(うこうむこう)という考え方を例に、OODAループの臨機応変の状況適応力を説明している。
「『有構無構』とは『日本刀を握るときに、構えがあるかないか』という考え方です。武蔵は『確実に勝つ』という目的のために、その場その場で構えを違えました。つまり『無構』ということです。その場その場で相手の心理を理解して、相手の先に動くことで確実に勝つという理論です。
たとえば、武蔵の肖像画は構えがない姿で描かれていますが、これは『無構』を表しています。確実に目的を果たすためには、型にはまらないこと。佐々木小次郎との巖流島の決闘では、刃長3尺余(約1メートル)の野太刀を使用する小次郎に対して、2尺5寸の長い木刀と、1尺8寸の短い木刀を携えたとされています」(入江氏)
これはOODAループの「みる(Observe)」、「わかる(Orient)」にあたる部分だ。型にハマらず、状況に応じて目的実現に必要な戦略を縦横無尽に変えるのだ。形骸化した手順やマニュアルに固執して内向きの無駄な業務に時間を浪費し、目的を見失っている日本人に対する警鐘とも受け取れる。
宮本武蔵を突然紹介したのには理由がある。OODAループを開発したアメリカ空軍大佐ジョン・ボイド氏は、剣豪・宮本武蔵ら日本の兵法を研究していた。『五輪書』の考え方が、OODAループ理論に大きな影響を与えているという。実は、OODAループの臨機応変な対応は、日本の兵法道の考え方にもとづいているのだ。
「そもそもOODAループは、紀元前1600年に中国の古代王朝である『夏』を『殷』が倒した戦い以降の、人類史上の戦闘の研究がベースになっています。紀元前500年ごろ書かれた兵法書である『孫子』、1645年ごろ書かれた宮本武蔵の『五輪書』などにもとづいています。
つまり、PDCAは『戦後の理論』であるのに対して、OODAループは『有史以来の兵法そのものの理論』ということになります」(入江氏)
型にハマって無駄が多く、スピードが遅い構えの決まったPDCAの欠点を排除するには、縦横無尽に構えを変えるOODAループが必須ということか。
<文/松井克明(八戸学院大学講師、地方財政論)>