「いい香り」を売りにする製品は年々増えている。
<ナオ / PIXTA(ピクスタ)>
香り過剰な教室で防毒マスクなしで呼吸できなくなった女子高生
「娘の症状は私どもの想像を超えるスピードで悪化し、学校では防毒マスクなしで呼吸ができない状態となりました。何より困っているのは高残香性柔軟剤●●●、●●●、●●●、●●●、洗濯洗剤●●●、●●●、●●●、デオドラントビーズ(*)、制汗スプレーです」
<*洗濯時に、香り付けだけの目的で使用するビーズ状の製品。後出の「香り付け用ビーズ」も同じ>
これは福岡県の私立高校2年生で化学物質過敏症患者Aさん(17歳)の母親が、今年7月、Aさんと同じクラスの保護者全員に宛てた手紙の一部である。伏字の部分には、それぞれ柔軟剤と合成洗剤の具体的な銘柄が記されている。そうしないと、自分が愛用している製品の香りが強いのかどうか、普通の人には判断できないからだ。
「上記の柔軟剤・合成洗剤等をご使用中のご家庭がもしございましたら、卒業までの残りの1年半だけでも別の洗剤や柔軟剤に変えていただけないでしょうか?(中略)そして香り付け用ビーズはご使用をお止めいただけませんか?」
悲痛なまでの懇願に、母親の煩悶とAさん自身の苦しみが窺える。なぜ、こんな事態になってしまったのか。
Aさんは小さいころからエビとイカのアレルギーがあるだけで、健康上、特に何の問題もなく元気に学校に通っていた。そのAさんに化学物質過敏症の症状が出始めたのは、中学1年生のときだ。そのころ頻繁に偏頭痛を訴えるようになった。だが母親は化学物質過敏症とは夢にも思わず、この子は頭痛持ちなのだと思っていたという。
しかし症状は次第に悪化し、腹痛や下痢を繰り返すようになっていった。中学3年生の夏には何を食べても呼吸困難・じんましん・口腔アレルギーを起こすようになり、複数の病院を受診した。食べられないものがどんどん増えていき、ひとつひとつ除去していかざるを得なかった。このころ、光線過敏症(日光アレルギー)も発症し、紫外線の強い日は5分も戸外にいるとじんましんが出るようになった。
高校進学後、国立病院機構福岡病院で「食物アレルギーではなく化学物質に反応しているのだろう」と言われ、初めて化学物質過敏症の診断を受けた。その後、別の病院で診断書を出してもらうことができたが、治療はできないと言われた。九州近傍には化学物質過敏症の専門医がいないため、現在はどこの病院にもかかっていない。薬の添加物にも反応するので、症状を抑えるための薬を飲むこともできない。
Aさんの母親には、娘の発症のきっかけのひとつとして、ある銘柄の柔軟剤が思い当った。Aさんが中学1年生のとき、それまで使っていた柔軟剤からその銘柄に変えたことがあった。母親は特に香りが強くなったとも思わず、新しい柔軟剤を一年半ほど使用した。だが思い返せば、そのころからAさんは頭痛を訴え始めていた。
高校1年生の冬、学校が教室を閉め切って暖房を入れるようになると、Aさんはフラフラになって帰宅し、激しい眠気を訴えた。喘息の発作、夜眠れないほどの頭痛、針で眼球や骨を刺されるような痛みに襲われ、さらには筋肉の弛緩によりペンや箸が持てなくなった。教室内に充満した洗剤や柔軟剤などの香りが原因ではないかと母親は考えている。