当該物件にも目を向けてみる。
随所に散りばめられた豪華な装飾、ふんだんに用いられた高級建材、こだわりの詰め込まれた3階建ての豪邸だ。築年数も浅く広い庭には車いじりも可能なほどのゆとりあるガレージが設けられている。
「そのガレージ、電動だから車も荷物も取り出せなくて困ってるんですよ」
この電動シャッター問題は家屋側にも生じていた。全ての窓に備え付けられた電動シャッターが閉ざされた状態のまま、電気が不通となっているため開けることが出来ないのだ。
「家の中、入ってびっくりしないでくださいね」
妙な前置きがあり屋内に通されると、そこには暗闇と蒸し暑さが広がっている。
漆黒と言えるほどの屋内に懐中電灯を向けるがどこにも生活感はない、代わりに債務者男性の寝泊まりや食事といった生活の窺える空間は、
広めに取られた玄関スペースだけだった。
「事業がうまくいかなくなり、安仕事で忙しくなると帰っても玄関で寝てしまう日々が続いたんです。気がつくと妻子も家を出て行った後で、もう家に上がることもなくなってしまいました」
日本には『起きて半畳寝て一畳、天下取っても二合半』という言葉がある。
人が生きていく上で最低限必要なスペースはそれほど大きなものではない。
運良く成功を収めたとしても、生活水準を一時的な成功に合わせるべきではないという戒めの言葉だ。
「狭小住宅」「タイニーハウス」という新たな住宅の捉え方、新たなライフスタイルがジワリと世界的広がりを見せている。最近では日本国内でも100万円~300万円で購入できるキット物件が拡充されるなど、選択肢が広がりつつある。
これらを「うさぎ小屋」「貧乏くさい」「みっともない」と鼻で笑う声もあるようだが、無事に返し終えるあてもない数千万円の借金を当たり前のように背負っていく行為とどちらが賢明な選択と言えるだろうか。
『起きて半畳寝て一畳、天下取っても二合半』
今一度、この言葉の持つ意味合いと向き合ってみても良いのではないだろうか。
<文/ニポポ(トンガリキッズ)>