一般に犯罪組織は会計簿といったようなものを用意して記帳するようなことはしない。それはエル・チャポに関しても同様で、利益や支払いと入金などについて書類上で明らかにされるものは何ひとつない。カルテル同士の利益の分配、公的機関への賄賂及びロジスティックな組織の更新による出費など不明なままである。更に疑問は、彼の資産と憶測されている金額から果たしてどれだけの額が実際にエル・チャポの懐に入ったのかという点も疑問だとされている。
ただ、エル・チャポがお金を持っていることは確かである。そうでなければ、彼の為に働いている弁護団への報酬も支払うことができないはずだ。今回の公判でも彼の弁護に450万ドル(4億9500万円)の費用が掛かったはずだと推測されている。彼に資金がなければこのような高額の弁護料は払えないはずだ。
2016年1月にハリウッドスタースターのショーン・ペンがエル・チャポの隠れ場所で彼と会見した時に、エル・チャポは「私は潜水艦、飛行機、トラック、船舶という一連の輸送手段を持っている」と語ったが、それらが今どこにあるのであろうか。また、この会見が探知されて彼の逮捕に結びつくといういわくの会見であった。(参照:「
BBC」
ちなみに、エル・チャポはフォーブスの富豪者リストに名を連ねていたことがある。最初に名を連ねたのは2009年で、その時の彼の資産は10億ドル(1100億円)と評価されて長者番付701位にランキングされた。2012年には1153位にランキング。2013年にはエル・チャポはこのリストから姿を消したのである。そこにはエル・チャポの富について正当性という意味で番付から排除する必要があるとフォーブスは感じたようである。
アムロが所見を明らかにする前に、メキシコ財務省の財務次官サンティアゴ・ニエトは、在メキシコ米国大使館並びに米国のエル・チャポに関係したすべての政府機関と協力していることを明らかにした。同氏が現在の任務に就任してからエル・チャポに関係したことだけでなく、メキシコの麻薬組織や石油の盗難組織などが開設している銀行口座について差し押さえを目的として精査していることを明らかにした。
国際間の犯罪や腐敗などによって得た資金の押収ついては国連腐敗防止条約(UNCAC)も犯罪組織などからの資金押収を容易にする手段となっているという。(参照:「
Forbes」)
しかし、驚くべきことであるが、犯罪組織の多いメキシコで、政府が犯罪組織の資金構造がどのような形で操作されているのかという分析をこれまで怠っていたという点にも犯罪組織の資金追跡が容易でない理由だとされている。
果たして、エル・チャポがいくらの資金を保有しているのか? それが回収可能なのか? 確かな情報は何一つない。
<文/白石和幸>