「4トン車なら4トン積める」は間違い。トラック運転手を苦しめる、荷主による「過積載の強要」

トラックの過積載は事故の原因にもなりうる危険な事案だ

重大な事故の原因にもなる「過積載」

 「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。  前回記事「業界に蔓延る“荷主第一主義”の弊害」について前編「トラック運転手の労働環境はなぜブラックになってしまうのか? ドライバーを縛る「荷主第一主義」」では、「荷主第一主義」で起きる労働環境のブラック化について述べたが、後編の今回は、現場から今だ聞こえる「荷主からの過積載の強要」について紹介したい。 「荷主第一主義」の中でも、筆者が最も悪質だと思うのが、「過積載」だ。  トラックドライバーをしていると、荷主から法で定められている最大積載量以上の荷物を「いいから積んでいってよ」と積まされるケースがある。  実際、現役時代の筆者も、大型連休に入る直前などに、得意先から「(連休は自分たちが休みたいから)今日これも一緒に持って行って」と、過積載を強要されたことが数え切れないほどあった。  過積載のトラックは、制動距離(ブレーキが効き始めてから停止するまでに走行した距離)が長くなり、走行中の車体もバランスが非常に不安定になる。これにより衝突・転倒したトラックは、通常よりもはるかに大きな被害をもたらすことは想像に難くない。  2018年9月、千葉県の県道で、緩やかな下り坂を走行していたトレーラーが青信号の交差点を左折した際に横転し、その先で信号待ちをしていた軽自動車が下敷きになった事故を覚えている方もいるだろう。    軽自動車は、原形が分からないほど変形。乗っていた3名が死亡したが、この事故の直接的な原因も、過積載だった。 「走ること」を「食べること」としているトラックドライバーにとって、このような重大な交通違反は、多方面で「命取り」だ。  ゆえに昨今、警察による取り締まりや、運送業界の働きかけも強まり、現役のドライバー曰く、こうした荷主らによる過積載の強要は、ひと昔に比べて大幅に減ったという。

「4トン車なら4トン積める」は間違い

 が、そんな現在においても、一部の運送や建設現場のトラックドライバーから、「いまだに過積載を強いられる」といった声が筆者に届くのも事実だ。  その大きな原因になるのが、荷主の道路交通法に対する認識の甘さだ。 「これも積んでいってよ」と軽い気持ちでドライバーに過積載を強要する荷主は、過積載がいかに危険か分かっておらず、罪の意識も道路交通法の知識も希薄な人が多い。  また、汎用性が高く、運送業界の中でも最もよく使用されているトラックの1つに「4トン車」と呼ばれる中型車があるのだが、これを知識の薄い荷主が「4トン車ならば4トン積める」と誤解しているケースもある。  トラックの「最大積載量」は、「車両総重量」から「車両重量」と「乗車定員(ひとり当たり55kg)」を差し引いた分のみ。  クレーンや昇降装置、冷蔵冷凍車に必要な装置などがトラックに付くほど、載せられる荷物の重さは少なくなり、4トン車の場合、最大積載量が3トン以下になることもザラなのだ。  建設現場で使用されるダンプカーは、石や砂、鋼材など、積み荷の比重が高いものが多く、過積載のリスクが高まる傾向があるという。  また、運送トラックが運ぶ、1つひとつの重さが分かりやすい段ボールや個体とは違い、ダンプカーが運ぶ石や土、砂利などは重さが千差万別で、現場で曖昧にされやすいことも原因となり得る。
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過積載で事故を起こしたドライバーの悲痛な訴え
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