酷暑の五輪、ボランティアの熱中症対策は? 組織委は「自己管理が大切」と責任を放棄

18歳未満の被る危険は、教員と親が責任を負う

 3万人のシティキャスト(都市ボランティア)には、高校生も含まれる。  都条例には、「保護者の委託を受け、または同意を得た場合、その他正当な理由がある場合を除き、深夜(午後11時から翌日午前4時まで)に青少年(18歳未満の者)を連れ出し、同伴し、またはとどめてはならない」と書かれている。  18歳未満の子どもは、親や教員と一緒でなければ、深夜外出も飲食店への入店も宿泊もできないのだ。  彼らが子どもだけで早朝のボランティアのために前日の深夜に外出すれば、警察に補導される恐れもある。そのため、大人の随伴がどうしても必要になり、親や教員は翌日の仕事を休む調整を早めにしなければならなくなる。  しかも、ボランティアは10日間以上も連続で続くため、教員は夏季休暇と有休消化で対応せざるを得ず、時間を奪われれば売り上げが減る自営業者の親にとっては経済的に大打撃になるだろう。ひとり親も連日、睡眠時間を減らされるのは必至であり、過労と酷暑で熱中症の危険が高まるおそれがある。  学校が親にボランティアに参加する子どもの引率に協力を求めてきたら、PTAが一丸となって抵抗しないと、校内の同調圧力によって大きな負担を被る親も少なくないだろう。  組織委は当初、ボランティア募集要項案に「合計10日以上の活動、1日8時間程度」と明記していたが、その後、市民からの批判を受け、「連続勤務は5日以内が基本」という趣旨の文言を加えた。  障害者の選手や観客の多いパラリンピック会場での慣れない「勤務」や、組織委が想定外にしたがる酷暑や災害を考慮すると、この「基本」がまっとうされる保証はない。  もっとも、ボランティアはあくまでも自由意志によって自発的に参加するものだ。  10日間も連続で「厳重警戒」「運動は原則中止」の日々を命がけで乗りきることに自信がないなら、今すぐ辞退するか、当日ドタキャンして自分の身を守っていい。  いつ辞退しようが、誰からも責められるいわれがないことを、どんな大人も高校生に説明しておこう。  とくに、来夏の半年後に受験を控えた今の2年生にとっては、「勝負の夏」を五輪に捧げても、勉強のための時間と体力を削られるばかりで、良い影響などまったくない。  夏期講習や運動合宿の参加も難しくなるし、9月の最後の文化祭の準備もおぼつかなくなる。

五輪の開催には、無償ボランティアはまったく必要ない

 日本は、IOC評価委員会へ開催準備基金を約4千億円と伝え、「コンパクト五輪」を訴えることで五輪招致を勝ち取った。だが、すでに開催経費は3兆円を超える規模にまで膨らんできた。  そこで、大会ボランティア8万人、都市ボランティア3万人ののべ11万人のボランティアを日給1万円の有償にしても110億円程度であり、今さら大した増額にならない。無償のボランティアを必要とする根拠は、もはやどこにもないのだ。  しかも、ボランティアは雇われたわけではないので、労災は下りない。辞退するのに責任など感じなくてもいい身分が、ボランティアなのだ。誰もが嫌がる酷暑の下で命をかけながらタダ働きをする必要など、まったくない。  年収1200万円といわれる電通社員の財布を肥やす商業イベントに、健康や命を害する恐れまで覚悟して無償で取り組む大義など、そもそもないのだから。  IOCに「コンパクト五輪」というウソをついた招致委員会は、「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」というウソもついていた。  1964年開催の東京五輪は10月に開催されたが、夏の開催は厳しいとの判断で秋の開催が決まった経緯があるのに、だ。  こうした欺瞞の上に、「無償ボランティア」がある。  五輪ボランティアに参加する高校生の親は、子ども本人の命がけの覚悟を尊重しつつも、組織委はボランティアに水筒を持たせたり、気温が変化するわけもない人工雪を降らせるなどのトホホな熱中症対策しかとっていない現実にも目を背けずにいてほしい。  いざあなたの子どもが倒れたり、亡くなったとしても、組織委は必ず「対策は適切に行いました」としか言わないだろうから。
フリーライター&書籍編集者。 1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。 その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。 著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。
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