実はこの金賞品の買取価格の値上げが公表されたのは、9月17日。その3日後の20日には価格が改定された。この一見、電光石火な動きにも理由がある。
早々にこの情報を入手していれば、パチンコ店で獲得した中景品を換金せずそのまま持っておく人が多発するためだ。通常1500円で買い取ってもらえるものが、数日後には2500円になると分かっていれば誰も売りはしない。
実際に17日に情報が公開されたあと、ヤフオク等で中景品が2000円程度で売られているのも確認した(現時点では誰も買わないが……)。東商流側は、買取価格値上げによる「損害」を最小限に留めることが出来たと見える。
パチンコ店側から見れば、中景品だけの価格変動であり、多少の混乱はあれどその対応は難しくない。問題は遊技客だ。今回の買取価格の値上げで、客側が得することはあれど、損することは無い。しかし、
今後のことを考えると客に取って不利な側面もなくはない。
例えば、今までの1000円相当、1500円相当、5500円相当の金賞品であれば、1000円分以上の出玉交換であれば、500円単位での「換金」が可能であった。
しかし今回の値上げにより、1000円相当、2500円相当、5500円相当に区切られれば、
1001円~1999円までの出玉分は生活用品等の一般賞品に交換せざるを得ない。1円パチンコや5円スロット等の低貸玉コーナーで遊技する客の「換金率」は今後大きく変動するだろう。
パチンコ店側にすれば、一般賞品の出庫率が高まるという事でもある。多少なれど、一般賞品の販売による利ザヤは見込めるだろう。
東京都内のパチンコ店で獲得出来る金賞品のTUCショップにおける買取価格と、世の中の金相場とは、今時点では切っても切れない相関関係にあり、金相場が乱高下すれば、流通システムを支える問屋だけではなく、パチンコ店や遊技客にも都度混乱が起きる。
関係者に聞くと、以下のように語った。
「やはり大事なのは金の『市場価格』との整合性が取れているのかというところ。昔の田舎のパチンコ屋では、パチンコ店が『本の栞』を特殊景品として提供し、それを買取所が数千円で購入するという事例もあり、これは『本の栞』の市場価格と著しくかけ離れている事から問題があった。
しかし東京都では金地金を賞品として採用していて、これは一般の相場価格から大き崩れないことから大きく問題になることはない。このシステムの脆弱性は、金相場の高騰。こればかりは世界的な相場なので、どうしようもない。
唯一、解決する可能性があるとするならば、
金地金の賞品になんらかの模様細工を施し、『デザイン』という付加価値を付けることだろう。これであれば相場が変動しても、『デザイン価格』の範疇で多少の価格変動には対応が出来る。
まあ、問題は現在流通している金賞品を一旦すべて回収し、そのすべてにデザイン細工を施すコストを誰が払うのかということ。そこまで考えると現実的な話ではないかも知れませんね」
一般の遊技客には分からない、厳密に言えばパチンコ業界ともまた違うところでの、特殊な悩みだ。「特殊景品」なだけに。
<文・安達 夕>