第三に、
ツマジロクサヨトウの被害です。このヨトウムシ(夜盗虫)は、新規に上陸した外来種で、今年7/3に鹿児島県南九州市で発確認されています*。
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ツマジロクサヨトウの発生の確認について2019/07/不明 農林水産省、
ツマジロクサヨトウ対策について2019/07/09農林水産省>
この後急速に分布を拡大し、8月下旬には茨城県*でも確認されています。
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害虫 ツマジロクサヨトウ 茨城、高知で確認2019/08/21日本農業新聞>
実は、私の自宅裏にトウモロコシ畑があり、スイートコーンが栽培されていましたが、全く虫害を感じさせず、お盆前後にすべて収穫され、出荷されました。尤も、愛媛県は14番目の発見県ですが、発見はかなり遅く9月2日*です。従って拡大速度は、ヨトウムシの割にはやや遅いように思われます。
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害虫ガ幼虫 西予の畑で県内初確認2019/09/03愛媛新聞>
この
ヨトウムシですが、非常にやっかいな害虫*で、私は40年近く前に家庭菜園を壊滅させられ、庭を焼き払った苦い経験があります。親の判子を持ち出した小学生に農薬を売るなど現在では考えられないことですが、勿論、基本的な農薬であるスミチオン、マラソン、ダイン(展着剤)、ジマンダイセンは使っていました。それどころか倉庫の肥やしだった在庫の10年ものBHCまで使っていたのだから恐ろしい小学生です。ちょうど遊びに来ていた家庭菜園を趣味とする父方の祖母は、小学生の孫が農薬をジャブジャブ使うのをみて青くなっていたのを良く覚えています。勿論、今の私なら血相を変えてやめさせます。このMADな小学生が唯一完全に敗北した相手がヨトウムシ(在来種)でした。
ああ憎たらしい。ああ悔しい。ああ恨めしい。
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農水省>
ヨトウムシは、広食性(何でも食べる)で一般的な農薬が効きにくいかなりやっかいな害虫です。しかも「夜盗虫」と書くように夜行性ですのでアシナガバチなどの天敵が狩猟圧力をあまりかけられません。更にツマジロクサヨトウは、アフリカで蔓延したときに薬剤耐性を身につけたとされます。更に困ったことに、ツマジロクサヨトウは、在来のヨトウムシが食害しないイネ科の植物をとくに好みトウモロコシが最大の食害を受けます。
一方で、日経新聞で報じられたもの*を除き、ツマジロクサヨトウについての広汎な薬剤耐性については、あまり報じられていません。農水省を代表とした農業指導資料、農業専門紙を調べますと、ツマジロクサヨトウが比較的薬剤耐性を持つことが分かりますが、現在の情報では制圧はともかく抑制不能とは思えません。
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農作物に脅威のガ、日本に侵入 鹿児島で幼虫を確認2019/07/15日本経済新聞>
農水省が公開している対策*と薬剤**を見ますと、おそらく決定的とはいかないまでも、相当に抑制できるものと思われます。
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ツマジロクサヨトウのまん延防止のための防除に係る対応 2019/07/09農水省>
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ツマジロクサヨトウに対しては 以下の農薬を使用して防除を行ってください。2019/07/09農水省 ※執筆時点で薬剤耐性に関する緊急発表などは見当たらない>
また、最近ではJA新聞がツマジロクサヨトウに使用可能な農薬について報じています*が、ここでも薬剤耐性への言及はありません。勿論、主たる理由は、情報の不足でしょう。事実、農水省の出すツマジロクサヨトウに関する情報でも、現時点で対策マニュアルがない事が大きな問題とされ、現状では暫定マニュアルで指導されています。
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【クローズアップ・ツマジロクサヨトウ】ツマジロクサヨトウの生態と防除対策2019/09/12農業協同組合新聞>
菅義偉官房長官により、ツマジロクサヨトウによる害虫被害対策が緊急輸入という発表がありました*が、九州中国四国では厳戒態勢をとっているものの、トウモロコシやお米、サトウキビが壊滅的打撃を受けているという報道は一切ありません。
この人は一体何を言っているのか?よその国か別の世界線(SF用語 パラレルワールド)の事かと首をかしげるのみでした。
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米産トウモロコシ大量輸入、害虫被害が理由 菅氏説明2019/08/27朝日新聞、
米産トウモロコシ爆買い理由は「大ウソ」? 米中貿易摩擦“尻ぬぐい”の言いわけか2019/09/03アエラドット>
同様の疑問が噴出したためか、紹介するようなSNSでの発言が相次ぎ、情報は混乱を極めました。
Twitterで流れていた翼賛流言飛語
企画は規格のあやまりで本人による訂正あり
このような検証不能の個人発信情報が大量に流れる一方で、
現地からは虫害によって農作物が壊滅したという報道は全くないのです。本来なら、農水省、県、日本農業新聞、農業協同組合新聞は連日大騒ぎになりますし、私が週一の楽しみにする温泉でもお百姓さん達は虫害の話題沸騰となるはずですが、そのようなことは
一切ありませんでした。
結局、農業協同組合新聞の9/3報道*で、このようなSNSでの発言は、典型的な翼賛流言飛語(翼賛デマゴギー)と確定しました。
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ツマジロクサヨトウ新たに愛媛、山口でも 各県の発生状況2019/09/03農業協同組合新聞>
この報道によれば、
◆食害があったという程度 収量減はない 鹿児島
◆被害は軽微 千葉県
◆影響は少ない 大分県、宮崎県
となります。
農水省、各県の農政課、農業事務所、JA(農協)、日本農業新聞などの信頼性の十分いたかい情報源を多角的に分析する限り、ツマジロクサヨトウは7月の発見からわずか二ヶ月あまりで東北にまで伝搬していますが、農業指導、圃場(ほじょう)監視、農薬散布、早期収穫などが効果を上げているらしく、
収穫への影響は軽微な模様です。