ほとんど喋らないけど「売る」営業マン。一体何をしてるのか?

客のリアクションが多かったり、他と乖離していれば「悩む」リストに

「『悩む』商品の反応は、表情は熟考です。眉が中央に引き寄せられる、口角が引き下げられる、下唇が引き上げられる、唇が巻き込まれる、唇が上下からプレスされる、こうした動きの単一もしくはコンビネーションが観られます。  そして、商品を様々で角度を何周も見ます。商品を手に取っている時間はバラツキがありすぐ手放したり長かったりします。商品を置き、顎や頬をさするなどの動きがあります。姿勢は後退して天を拝んだり、前傾して頬杖をついたりします。 『う~ん』とか『え~』とかパラ言語が見受けられることもあります。いずれも悩む! リストに入れます」  悩むは、熟考表情だけでなく動作もたくさんあるようです。こうした様々な悩む反応をT・Yさんは即座に読み解いていきます。しかし、この分類が一筋縄にはいかないこともあるようです。 「どのリストに入れるか判断が難しい商品の場合、動作が多かった、もしくは他とは乖離した反応のものは悩む! リストに入れます。中でも、熟考のコンビネーションや強度が強い反応を示した商品を優先的に悩む! リストに入れるようにしています」  表情・動作の動きが一番多いもの=関心がある、と判断されるようです。

「買わない」商品を並べ直して答えあわせをする

 さぁ、ここからいよいよ営業トークのはじまりと思いきや、一通りのリスト作成が終わってもすぐにお客さんには話しかけないそうです。なぜでしょうか。 「全て商品をお客さんが見終わっても、声はかけません。大概の場合、もう一度商品を見るからです。十中八九、悩ましい商品を触りに行きます」 「僕はこのタイミングで自分の判断について1回目の答え合わせをします。『買わない!』を集めて並べ直すのです。  その際は、『失礼します』とひと声かけるぐらいで自分の行動の説明はしません。僕が商品を動かしてもお客さんが反応しなければ『当たり(当初の買わない!リストのままでOKという意味)』。  商品に目線を向けてきたら、『もう一度ご覧になりますか?』と声がけをする。その商品は『悩む!』リスト入りします」  このように「買う」「悩む」「買わない」を分類して、お客さんが商品から手を離し、お茶やタバコを吸い始めるといった動作をしたら2回目の答え合わせをするとT・Yさんは語ります。 「『買う!』の中から一つ手にとって『これとても良いですよね〜』『素晴らしいですよね〜』等、感情語を使ってお客さんの反応を確認します。 買うと決めているものは目線を商品に向け頷くか幸福表情で『受容』してきます。その動作を繰り返し、商品をまとめていきます。 ただ、動作は繰り返しますが手や身体の動作はゆったりと動かすようにします。テキパキして早々と動くとその動きに注意を向けられ片付けているような印象を与え、早く帰ってくれというメッセージを伝えたくないからです。 お客さんの正面には『悩む!』を、『買う!』はお客さんから見て右の視界の端っこにセッティングします。『買わない!』は左の隅に置いたままです」  様々な角度から自身の判断の答え合わせをされるようです。とても自然な流れでお客さんに商品を見せながら、リストの正確性を判断している様子が伝わってきます。  さて、いよいよ大詰めです。クロージングに入ります。微表情・動作観察を駆使しながら、お客さんの関心度を分類し、T・Yさんはどのような営業トークを展開していくのでしょう。次回、T・Yさんがついに口を開きます。 <文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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