―― 被災地の復興はどういう状況なのですか。
桜井氏:県や地域によってそれぞれ状況が違うので、一概には言えません。福島県内でも、浪江町津島地区のように震災後からほとんど手つかずのところもあれば、南相馬市のように活気を取り戻しつつあるところもあります。
南相馬市について言えば、震災前の人口は約7万1500人、震災直後は約8500人まで減りましたが、現在は約5万4000人にまで回復しています。震災前と比べると、人口は1万7500人減少したということです。
問題は、その内訳です。減少した1万7500人のうち、15~64歳の現役世代は1万3000人、0~14歳の子供世代は4500人です。また震災前は男性に比べて女性の方が3000人ほど多かったのですが、現在では女性の方が5000人ほど少なくなっています。つまり、
震災後に避難した現役世代や子育て世代が帰ってきていない、特に女性と子供が戻ってきていないということです。
その結果、南相馬市の人口構成は逆ピラミッド化が進みました。震災前と震災後で65歳以上の高齢者の人数は2万人程度で変わっていませんが、人口が減った分だけ高齢者の割合は26%から35%まで増えています。
そのため
人手不足が深刻化しています。コンビニやファーストフード店の時給は1200円、夜勤では1500円を超えるほどです。スーパーではレジ係が足りないので、セルフレジの導入がどんどん進んでいます。
確かに震災直後にゴーストタウンだった頃と比べると、南相馬の復旧復興は進んでいるように見えるかもしれません。しかし、震災前には戻っていない。
復興以前に復旧ができていないのです。
現在、南相馬市の人口は5万4000人ですが、毎年自然減で900名ずつ減っていきます。現役世代や子育て世代が戻ってこなければ、このまま人口は漸減していき、やがて衰退していくしかありません。しかし、
彼らは戻ってこない。戻ってきたくても戻ってこられない。なぜか。原発事故が収束していないからです。
福島第一原発は30~40年以内に廃炉するという約束でしたが、それが嘘だったことはもう明らかです。廃炉作業は遅れに遅れており、第一段階である使用済み核燃料の取り出しすら未だに終わっていない。廃炉は30~40年以上も先のことになるだろうと思います。
廃炉作業や除染作業が続いているかぎり、県民は放射能と付き合い続けなければならない。南相馬に戻って生活を再建しても、廃炉作業中に事故や災害が起きれば、またその生活を捨てないといけないかもしれない。こういう事情から、故郷で生活する人が減っているのです。
原発事故が復旧復興を妨げている現実があります。