渾身の潜入ルポ。必見の書だ
またイギリスでは、英国議会がアマゾンのイギリス法人のトップに対し、下請けドライバーの労働環境を調査するよう公開書簡を送っている。これを聞いた横田氏は、こんな感慨を漏らしている。
「イギリスの国会議員はフットワークが軽いなぁ。アマゾンの労働問題に限らず、(中略)アマゾンの租税回避でもイギリスの国会議員が積極的にアマゾンに攻め込んでいる。同じようにアマゾンに切り込んでいく政治家は、残念ながら日本では見当たらない」
ドイツのライプチヒの物流センターで労働組合に参加するメンバーの話も、臨場感に溢れている。
「昨年(17年)は、1年間で40回のストを打ちました。そのうち、30回はストライキ会議のメンバーが赤い笛を思いっきり吹くことではじまります。大まかな予定については、SNSやメールで組合員に前もって伝えていますが、正確な時間は決めず、アマゾン側の不意を打つような形ではじめるのです」
これに対し、会社はセンター内の人員配置を変更するほか、隣国のポーランドに注文を回してしのごうとする。
しかし労組はポーランドの労働者とも連絡を取り小規模なストを打つことで「アマゾンの経営に打撃を与えるような戦略」をとっているという。この闘争を経て実際に賃金が上がっているというから、見事なものだ。
このように横田氏は、アマゾンに関する問題を洗いざらいに明らかにするだけでなく、ヨーロッパの先進的な取り組みによって改善が図られている例までを、縦横無尽に取材して回る。横田氏の反骨精神が分かる一節が、あとがきに書かれている。
「アマゾンを世界の“勝ち組企業”として礼賛する情報があふれる現状で、少しでも違う見方ができるような視点を心がけ、この書籍を書いた」
これを読んで思い出したのが、
「プレジデント」2015年3月2日号の対談記事だ。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、漫画家の弘兼憲史氏とこんなやりとりをしていた。
弘兼「柳井さんは卓越した経営者ですが、パーティや会食などには消極的なので、人柄も誤解されがちです」(略)
柳井「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」
これを読んだ横田氏は「
ならば自分が働いて書いてやろう」と考え、あの『ユニクロ潜入一年』を書いたきっかけとなったのである。
勝ち組でありながら、利益を生み出すしくみについては徹底した秘密主義を貫き、その裏にある影の部分を決して明かそうとしない点は、ファストリもAmazonも似ている。そこが横田氏の闘争心に火を点けた。今回のアマゾン本も、これぞジャーナリストの仕事と思わせる凄みがある。