トラック運転手の労働環境はなぜブラックになってしまうのか? ドライバーを縛る「荷主第一主義」

荷待ちするトラックの列

荷待ちのため、深夜に長蛇の列を作るトラック

トラックドライバーを苦しめる「荷待ち」の時間

 「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。  前回は、「不規則な生活や肉体労働に対峙するトラックドライバーの職業病」について紹介したが、今回からは、「業界に蔓延る“荷主第一主義”の弊害」について前編・後編に分けて紹介する。  前編である今回は、トラックドライバーの労働環境が過酷になる根源とも言える「荷待ち」について述べていきたい。  トラックには、「ノロノロ運転」や「エンジンを掛けたままの駐車」など、世間に迷惑を掛けると分かっていながらも、そうせざるを得ない「道路上の事情」が多くあることは、今まで言及してきた通りだ。  こうした事情をなかなか分かってもらえずに「邪魔者」という烙印を押されてしまう彼らは皆、やきもきしながら日々走り続けている。

クライアントである荷主の要望には無理をしてでも応じなければならない

 が、トラックドライバーが理不尽を被るのは、道路上に限ったことではない。むしろ、彼らが心身ともに疲弊するのは、「荷主(荷物の輸送を依頼する運送業者にとっての客)」とのやり取りの時であることが多い。  トラックドライバーにとって、荷主の言うことは「絶対」だ。所属している運送会社からの指示はもちろんだが、場合によっては、そんな会社からの指示以上に、現場で告げられた荷主の要望を優先せざるを得ないこともある。  なぜか。他でもない、荷主は彼らトラックドライバーにとって“お客様”だからだ。  そんな“お客様”からの無理な要望は、トラックドライバーの労働環境を悪くし、時にその身を危険にさらすことさえある。  実際、トラックドライバーが現在強いられている多くの負担には、この「荷主第一主義」が関係しているケースが非常に多い。これまでに紹介した「路上駐車での休憩」、「荷待ち」、「ETCの深夜割引への固執」、「手荷役」などもその数例だ。  中でも、彼らが毎度必ずといっていいほど直面するのが、「荷待ち」である。  荷待ちとは、「積んでいる荷物を現場で降ろすまでの待機状態」のことをいうが、基本的にトラックは、遅れて到着する「延着」はもちろんのこと、早く現場に到着する「早着」も許されておらず、それゆえ、ほとんどの現場でこの荷待ちが発生することになる。  それどころか「近所迷惑」という理由で、荷主の建物付近での待機すら禁じられることもあり、そのためドライバーには、常に早く到着した時の「待機場所」を考えて、走ったり時間調整したりする必要が生じるのだ。
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産業界に定着する「ジャスト・イン・タイム方式」の弊害
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