京急脱線事故のトラックは、なぜ小道に迷い込んだのか。ドライバー視点で考察する
毎度、本シリーズでは元トラックドライバーとして、「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」を紹介しているが、今回は、9月5日に横浜市神奈川区の踏切で起きた、京急電鉄の電車とトラックとの衝突・脱線事故について、現役のドライバーの見解を交えながら「どうしてトラックは小道に迷い込んだのか」を考察してみたい
事故は、5日午前11時40分ごろ、横浜市神奈川区の京浜急行線「神奈川新町-仲木戸」間の踏切で発生。
目撃者の情報によると、トラックは線路脇の道路から右折して踏切に進入しようとしたが曲がりきれず、ハンドルを何度も切り返すも、そこに通常時速120kmで走行する8両編成の電車が衝突。3両目までが脱線し、乗っていた乗客33名が負傷、トラックドライバーは死亡した。
トラックは大型13トン車。千葉県香取市にある運送会社を午前4時に出発し、横浜市神奈川区の出荷場でオレンジなどを積み込んだ後、予定では午後1時ごろには、千葉県成田市の卸売会社に到着するはずだった。
ドライバーがその道を運転したのは4回目で、最初の1回目以降は1人で走行していたとのことだったが、今回トラックが走行していたのは、その1回目の際に同乗者が教えた通常のルートとは違う道だったという。
同ドライバーは67歳の男性で、別の運送会社で20年ほど同じくドライバーとして働いていた、いわゆるベテラン。事故当時に所属していた千葉県の運送会社には、昨年10月から勤務しており、それまでは無事故。健康診断でも問題は見当たらなかったという。
ここで問題になるのが、「どうしてベテランのトラックドライバーが、通常ルートではない小道に入り込んだのか」だ。
少しでも考えられる原因を挙げてみた。
1.プロでもミスをする
こうしたトラックによる事故が生じると、毎度言われるのが「トラックドライバーはプロだろ」という言葉だ。
ミスをするドライバーを擁護するつもりはないが、彼らにも「デビューの日」はあるし、道の真ん中でエンストを起こしてしまうトラックドライバーだって大勢いる。
また、今回のドライバーのようにベテランと言われるほどの運転歴があっても、体調不良になることもあれば、走行中、交通状況によっては、集中力が散漫になったりもする。
そうすれば、やはり道にも迷いやすくなり、いつもできるはずの切り返しが上手くいかないということだってあるのだ。
それでも「本当のベテラン」の中には、「過去に3回も走ればルートは覚えられる」とするドライバーもいるのだが、ただ、それが「連続4日」だったのか、「数か月に1度の4回目」だったのかでも、大分記憶は違ってくる。
2.慣れた
もう1つ、彼がいつもと違うルートを走行した理由として個人的に考えられると思っているのは、「慣れ」だ。
ベテランのドライバーの場合、同じルートを過去3回走ったからこそ、別ルートを走った可能性も考えられる。
何度か同じルートを走ると、ドライバーには幾ばくかの「安心感」を抱く。そうすると、今まで緊張のためにやってこなかった「寄り道」や「別ルートの探求」などをしたくなるもので、彼ももしかするとこうしている間に、小道へ迷い込んだとも考えられなくもない。
とりわけ「寄り道」においては、午前4時から午前11時過ぎに働いたとなれば、ちょうど休憩を取りたくなる時間でもある。
3.普通車用のカーナビを使用していた
一般ドライバーにはあまり知られていないが、カーナビゲ―ション(カーナビ)には、普通車用とは別に、大型車進入禁止道路などに対応した、「大型車用のカーナビ」が存在する。大抵の場合は有料で、月に500~800円ほどかかる。
もし、今回死亡したドライバーが事故当日、不慣れな道で、普通車用の「無料のカーナビ」を使っていたら、小道へ誘導されていた可能性がある。実際、現役トラックドライバーの中にも、普通車用のカーナビを使っている人は未だに多い。
ベテランドライバーだったはずがなぜ……
いつもとは別の道を行きたくなった!?
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