しかし、今回最も重大な点は、
ベトナム人技能実習生3人が福島原発事故の影響で放射線量が高くなっている危険地帯で、除染作業・被ばく労働に従事させられていたことだ。具体的には、郡山市と本宮市の住宅地や森林での除染作業、さらに当時は
避難指示解除準備区域内であり一般の立ち入りが禁止されていた浪江町での下水管配管工事に従事させられていたのだ。弁護団の中村優介弁護士は、「これによって今回の一件は実習生が契約違反の仕事をさせられただけではない、
別次元のレベルの問題になっている」と話した。
先ほどのコンさんの手紙の続きを読んでみよう。
「とくに除染をたくさんやらされました。誰もいない立ち入り禁止の場所(なみえ)でも働きました。危険な仕事だとは知らされませんでした。将来、とても健康がしんばいです。会社と交渉しましたが、会社は謝罪もしないし、補償もしません」(原文ママ)
労働安全衛生法では除染作業に従事する労働者の健康被害を防止するため、事業者は労働者に対して学科・実技の両面で特別教育を実施しなければならないとする「
除染電離則」を定めている。しかし訴状によれば、ベトナム人技能実習生3人が日和田から受けさせられた講習はビデオ視聴だけだったという。
ここには、技能実習生の日本語能力が専門的な内容を含む資料を理解するレベルに達していない場合も多いという問題も関連してくる。たとえば、厚生労働省電離放射線健康対策室編「除染等業務特別教育テキスト(4訂版)」は関係法令を含めれば230頁を超えるもので、日本語以外の言語では用意されていない。
日本語でさえ難解な漢字や語句が頻出するこのテキストを、技能実習という名目で来日した技能実習生に理解しろと言うのは無理難題を押し付ける行為だと言わざるを得ない。現行の制度とそのために整備された現実的な条件のもとでは、除染作業に従事する技能実習生の安全を確保することは極めて困難だ。
ベトナムでは2016年に原発の建設計画が中止されており、現在原発ゼロの国だ。そのためベトナム人実習生を除染作業・被ばく労働に従事させるのは技能実習としての意味をなしていない。弁護団は日和田の対応を
出入国管理法違反と見なし、今後の訴訟を進めていくつもりだと話した。
今回の一件は、契約に反して、また事前に十分な知識と注意を与えられることなく除染作業に従事させられた技能実習生が雇用主を訴えた初の事例としてそれ自体注目すべきものだ。だがそれが注目されるに値するのは、健康被害を負いかねない危険な環境で労働させられる技能実習生の存在が決して過去の問題ではないからだ。
全統一労働組合の佐々木史朗さんは、除染・除雪等の業務について、「特定技能外国人と同様の業務に従事する他の技術者が従事している場合、特定技能外国人に同程度の範囲内で従事させることは差し支えありません」と明記された法務省の文書(
「運用要領別冊 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-建設分野の基準について-」)の一節に言及し、その点を強調した。条件付きではあるが、特定技能外国人に除染に従事させるケースを「差し支えない」として容認しているのである。
外国人技能実習生権利ネットワークの旗手明さんの話でも、今回のベトナム人技能実習生3人が氷山の一角に過ぎないことが指摘された。今回も使用者側は「除染は危険だと認識していない」と回答したという。
激化する入管収容所の長期収容者によるハンガーストライキ。政府と一部のマスメディア・出版社が一体となって韓国へのヘイトを煽るような国内の動向。
日本という国家が外国人に対してとる態度に起因するこれらの問題の一端として、今回の一件を位置づける必要がある。我々はこれら一つ一つの問題を個別的に注視しつつも、日本という国家が歴史的に形成させてきてしまったそれらの淵源を病根として断ち切るべく自問自答を続けていかなければならないのである。