増える女性向け風俗、男性セラピストに依存してしまう利用客も

男性セラピストに過度に依存してしまう女性客も

画像提供:SPA White

 ここで問題なのは、女性向け風俗が、あくまでも女性の精神面を癒す、という体裁を取っていることだ。それ自体は何ら問題もなく、一種のファンタジーとして消費できれば女性向け風俗は楽しい。  しかし、現実的に考えると、容姿端麗な男性に甘い言葉を囁かれながら自身の身体を委ねるということは大多数の異性愛女性が持ち得る幻想的欲望であり、それを一時的にでも満たしてくれる男性セラピストというものは貴重な相手なのである。そのため、あくまでもサービスであることを忘れ、男性セラピストに過度な期待をしてしまう女性客も少なくないという。  また、一説によると、多くの女性向け風俗の利用者は、男性経験に何らかのトラウマやコンプレックスを抱えているという。そのような人たちの立場を考えると、自身のコンプレックスを払拭してくれる男性セラピストとの時間は、彼女達の人生にある一定の刺激を与えるものである。その刺激が、外の世界、つまり一般社会での恋愛・婚活の場でポジティブなものとして活かされればいい。何らかの原因で自分に自信を失っていた女性が、風俗での経験からそれを取り戻し、仕事や他の人間関係で活かすことができる、それが風俗、特に昨今の女性向け風俗に求められる姿なのではないだろうか。  しかしながら、中には前述した幻想的欲望を満たし続けるために、男性セラピストに一線を画した要求をしてしまい、男性セラピストを傷つける女性客もいる。そしてその逆も然りで、男性セラピストのエゴによる不誠実な対応で、そのような心理的状況に悩まされ、傷ついた女性客も少なくない。  女性向け風俗店、SPA Whiteグループ代表久慈あす香氏によると、男性セラピストのほとんどがツィッターを使い、ダイレクトメール(DM)によって女性客と個人的な連絡が取れる、という状態が、女性向け風俗が提供するファンタジーと現実の境目の曖昧化の温床になっている、とのこと。 ホテル内での施術に加え、ツィッターでDMを送ることは男性セラピストにとっては営業にすぎない。しかし女性客の中には、日常生活に影響が出るほど心理的に依存してしまう人もいる。  これはホストの「色恋営業」と似ており、男性セラピストが「好きだよ」「かわいいよ」と言った言葉を過剰に使いすぎてしまうと、そもそも現実の生活で異性関係に何かしらの問題を抱えている女性客は、それに依存してしまう可能性もある。  また、この構図が一般化することによって、女性客がそのようなDMのやり取りを要求するようになってしまうと、男性セラピスト自体も時間外労働を強いられる、ということになりかねない。つまりはどちらにも良いことはないのである。  もちろん、「色恋営業」を駆使し、女性客を男性セラピストに依存させ、来店頻度をあげ、収益を拡大するというビジネスモデルもあるだろう。しかし、それは本当に女性が「安全に、楽しく」遊べる女性向け風俗なのであろうか。  あす香氏によると、SPA Whiteグループではそのような共依存の関係を避けるために、日程調整等以外での過度なDMでのやり取りは禁止、施術後はホテル前解散、というルールを設けているそう。無論、このルールに対して賛否両論はあるが、それも女性客と男性セラピストの事を想ってのこと。「あくまで女性が幸せになる為に必要な女性向け風俗であって 、女性向け風俗が必要になってしまう女性向け風俗は作りたくない」とあす香氏は語る。  逆説的ではあるが、あす香氏は女性向け風俗からの「卒業」も奨励している。つまり、女性向け風俗で自己肯定感を高め、女性向け風俗は必要ない状態になることだ。あす香氏にとって女性向け風俗は、女性のための「駆け込み寺」的存在であるべきであり、依存する場所ではない、とのこと。

女性が性を楽しむことが「当たり前」になるように

 そもそも風俗店とは、サービスと時間を、お金を対価にして享受するものだ。それはきっと多くの女性にとって、エステサロンやリラクゼーションサロンと本来は同等のはずだ。  前述したような問題が現実に起ってしまうのは、性的な行いと恋愛感情を切り離すことができない人が少なからずいること、また、そもそも女性の性的欲望が社会的に認知されていないことが原因なのではないか。  確かにセックスやそれに伴う性的な行為は、その近距離感ゆえに感情が入りやすい。しかし、それらは行為であって、必ずしも恋愛感情が伴うものではない。ここでいう恋愛というのは、その行為の相手の時間と場所を恒常的に相互で共有する、という意味だ。  パートナーとの日常は、時には自分のエゴを抑えて妥協し、相手を思いやることでその関係性を築いていく。それ自体はとても尊いものだ。逆説的にいうと、風俗はそのような社会的関係性から一時的に(しかも数時間という短い間)解き放たれ、自分にご褒美を与える時間なのである。  また、女性の性的欲望も、男性の性的欲望と同等で、時には発散されるべきものなのだという社会的認識もあって然るべきだ。いくつになっても性的欲望はあって当然だし、それは何ら恥ずかしいことでもない。動物として自然なことであるし、ゆえに女性の性的欲望も、もっとリスペクトされるべきものなのである。  セルフプレジャーの一環として、女性向けアダルトビデオや女性向けの大人のおもちゃ、そして女性向け風俗がある。それらを楽しむ女性の性文化はなくてはならないだろう。  「当たり前」に女性が性を楽しめる社会になるための女性向け風俗。産業として、文化として今後の発展に期待したい。 <取材協力/SPA White>
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学・社会学PhD在籍。ジェンダー・メディアという視点からポルノ・スタディーズを推進し、女性の性のあり方について考える若手研究者。
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