「誘致白紙」はいつからいつまで言っていた? 横浜市長カジノ答弁、その変遷を議事録から辿る

市長選挙を控えてトーンダウンする2015年後半~2017年前半

 しかし、2017年7月に市長選挙を控え、2015年後半からは答弁内容に変化が見られる。誘致に積極的な答弁(赤字)と消極的な答弁(青字)が入り混じるようになるのだ。 「先ほど申し上げました最初の委託の検討調査というのは、IRの基礎的な内容を把握するために実施したものでございますから、これが全部ベースになって、私どもが絶対IRの導入の中のカジノがいいというふうに申し上げるものではございません。」(2015/10/1 決算第一特別委員会) 「私は、カジノをやるということは申し上げていないので、IRというものが選択肢の一つだと考えているところでございます。」(2016/5/27 第2回定例会) 「私は本当に将来の横浜のいわゆる持続的な経済成長のためにはこれは必須であるのではないかと思いますので、今は大きくこのカジノを含めたIR導入を視野に入れております。」(2016/12/9 第4回定例会) 「カジノ誘致の件でございますが、先ほども御答弁申し上げましたように、今本当にカジノ誘致とかIRを導入するか否かも全く決まっておりません。」(2017/2/24 第1回定例会) 「IRについて、引き続き、国の状況を見きわめながら、調査、研究する必要があると考えているわけでございます。」(2017/3/22 予算第一特別委員会)  結局、市長はカジノ誘致に賛成なのか反対なのか判断できない曖昧な答弁がこの時期は続く。この状況で迎えた2017年7月の市長選挙で林市長は「カジノ誘致は白紙」と公言して再選を果たす。

「白紙」発言を連発する市長選後の2017年後半以降

 再選後、林市長の答弁には3つの明確な変化があらわれる。1点目は一貫して誘致に消極的な答弁(青字)が続くこと。2点目は「カジノ」とは極力言わずに「IR」と発言すること。3点目は誘致の賛否について「白紙」という表現を必ず用いることだ。 「IRについてでございますけれども、国において検討が進められているわけですけれども、いまだ全体像は明らかになっていないというふうに私は感じております。ですから、この状況の中で全くもって私自身は白紙でございます。」(2017/9/13 第3回定例会) 「カジノについては、もう何度も申し上げておりますけれども、あくまで横浜市の将来を考えて、それから市民の皆様のお気持ちに沿いたい。それが一体一番いい選択肢は何であるかということで、今は全く白紙の状態である」(2017/10/3 決算第一特別委員会) 「国で検討中のIR構成施設の例示の一つに、委員からお話がありました劇場が記載されていますけれども、IRについては、まだ全体像が不明で、現在横浜市としては白紙なわけでございます。」(2018/3/20 決算第一特別委員会) 「IRについては白紙ではございますが、さまざまな受けとめ方がありますので、引き続き国の動向を見据えながら検討」(2018/5/25 第2回定例会) 「IRについては多様な御意見があるので、今横浜市は私としてはIRを導入する、しないについて判断してないということが白紙だということでございまして、私自身も先入観を持たずにさまざまなお声を聞いているということ。」(2018/9/11 第3回定例会) 「IRについては白紙であるということは何度も申し上げております。それ以上ではございません。委員のおっしゃることがちょっとわかりません。」(2018/9/26 基本計画特別委員会) 「国の調査に対して検討中と回答した理由ですが、横浜市は、IRについて国の動向を見据えた検討、調査研究をしている状況です。国の調査票の選択肢で最も近い区域整備計画の認定申請を行うかどうかを検討しているという選択肢を選び、回答しました。横浜市がIRの判断をしていない、白紙の状況に変わりはありません。」(2018/12/11 第4回定例会)  紹介した全ての答弁において「IR誘致は白紙」という趣旨の答弁を繰り返している。  しかし、2019年8月22日、林市長は突如として「白紙」方針を一転させ、カジノを含むIRの誘致を記者会見で正式に表明した。しかも、誘致の理由に挙げたのは人口減少や高齢化に対する危機感。そんなことは10年以上前から分かっている話であり、今年に入って突然方針を変えた理由には全くなっていない。 <文・図表作成/犬飼淳>
TwitterID/@jun21101016 いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。
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