長期投資を目指す投資家が注目。新指標「TSR」ってなんだ?

TSRで取締役選任議案の賛否を決定?

 配当と株価の値上がりを加味した総合的なリターンで株主に利益をもたらして初めて、経営陣の報酬もアップする、というわけだ。すでに投資ファンドもTSRを重要指標に取り入れているという。 「村上ファンドOBがつくったエフィッシモ・キャピタル・マネジメントはこれまでROE(自己資本利益率)をベースに、投資先の取締役選任議案に賛成するか否かを決定しましたが、今年から基準にする指標をTSRに切り替えました。取締役の評価基準にTSRを採用していない企業や、同業他社と比較してTSRが低い投資先の取締役選任議案については原則、反対する姿勢です。モノ言う株主が注視しているだけに、今後はTSRを高める企業戦略が重要になってくるでしょう」(経済誌記者)  当然、そこには投資のチャンスが転がっている。 「TSRは業績を伸ばしたり、配当を増やすこと以外にも、近年増えている自社株買いでも高めることが可能。発行株数を減らせば、1株当たりの価値は高まりますから。企業にとってTSRを高めることは、そう難しいことではないんです。だから、役員報酬の基準や、経営の重要指標に取り入れている企業はそれだけで人気を集めやすくなる可能性がある」(かぶ1000氏)  TSRを重視する企業の姿勢こそが、投資の目安となるのだ。数値が高ければいい、というわけではない点に注意したい。 「金融庁は有価証券報告書に過去5年間のTSRを記載するよう定めていますが、ここ数年で大幅に株価が上昇した銘柄を見てみると、5年間のTSRが500%を超えているケースもある。複利運用を前提に年率換算にすると約40%。非常に大きなリターンですが、そのリターンの大半は“過去の値上がり益”です。配当は大きく変動しないものですが、株価はそのときどきの相場に大きく左右される。TSRの高さが、必ずしも今後のリターンの期待値を高めるものではない点に注意すべき」(証券関係者)  そんなTSRの特徴を踏まえて、かぶ1000氏がセレクトしてくれたオススメ銘柄が下記の5つ。 「配当利回りが全体平均を上回る3%以上で、年率換算のTSRで見ても6%以上ある安定したリターンを弾き出した銘柄のなかから、割安感が強い、ないしは好業績が続く成長銘柄、自社株買いなどの株主還元に積極的な銘柄をスクリーニングしました。日経平均採用銘柄の三菱商事とコマツは、NYダウが下げると売り込まれる可能性もありますが、配当利回りが5%に迫るかなりの割安銘柄。数年単位の長期で保有すれば、十分なリターンが期待できます」  コツコツ投資で安定運用を目指す投資家は参考にしてほしい。

<株1000氏が厳選・TSRと実績で抽出した注目銘柄5選>

※株価などの情報は8月21日時点 ※※TSRは有報の記載数値を年表換算して表記 弘電社[東2・1948]  三菱電機系の設備工事会社。好業績で増配を続ける高配当銘柄。PER6倍台と超割安な水準である点に注目 株価:4670円 配当利回り:4.28% TSR:18.49% PER:6.1倍 PBR:0.52倍 三菱商事[東1・8058]  総合商社大手。来年5月までに3000億円の自社株買いを行うなど株主還元に積極的。PER、PBRで見ても超割安 株価:2566円 配当利回り:4.87% TSR:12.85% PER:6.8倍 PBR:0.72倍 因幡電機産業[東1・9934]  電設資材の国内トップ企業。1Qで46%の営業増益と絶好調。市場の影響を受けにくい事業性と高配当に注目 株価:4605円 配当利回り:4.34% TSR:8.15% PER:12.8倍 PBR:1.04倍 セイコーホールディングス[東1・8050]  腕時計で国内首位。「グランドセイコー」の高級路線が好調で、1Qは営業増益に。PER、PBRで割安感が際立つ 株価:2191円 配当利回り:3.42% TSR:7.65% PER:9.5倍 PBR:0.83倍 コマツ[東1・6301]  建機で世界2位。世界的な建機需要の低迷で株価は1年弱で半値に落ち込んだが、1Qはほぼ計画どおりで底入れ感 株価:2248円 配当利回り:4.9% TSR:6.56% PER:9.87倍 PBR:1.19倍 <株のプロたちが実践するTSR活用法> ①TSRはスクリーニングの目安。高配当・低TSR銘柄は避けるべし ②TSRを役員報酬の基準とする企業は値上がり期待アリ ③営業利益率やPBRも参考に長期投資でリターンを狙え! 【かぶ1000氏】 資産4億円バリュー投資家。中学2年から株式投資を開始し、専業投資家歴30年超。累積利益は4億円以上。ブログ「かぶ1000投資日記」のほか、@kabu1000で投資成績を公開中 取材・文/池垣 完(SPA!本誌)
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