廃品アートのほかには、ちょっとエッチなコーナーもある。物置くらいの小屋に壇蜜のグラビアが飾られた「壇蜜の部屋」は、中條さんの一番のお気に入り。赤い照明が妖艶なムードを醸し出している。
「体とか脳の働きは年齢に逆らえないけどさ、唯一逆らうことができるのは気持ち。こういうのを男が見るとワクワクした気持ちになって病気を防げる……と思い込んでいるわけ(笑)」
筆者が「いつかテレビの取材で壇蜜が来てくれるかもしれないですね?」と振ってみると、中條さんは頭の中で妄想したのか「フフフ」と口元を緩めて、その姿にこちらも笑ってしまった。
オープンにスケベ心を晒す中條さんだが、36歳のときに結婚した妻と二人で暮らしている。アダルト保育園については「女房は関心がないようで、文句も言わなければ褒めもしない」らしい。奥さまの本音が気になるところだ。
中には、壁一面に羽子板が飾られた一角もあった。
「田舎は義理人情が熱いから、親戚にこどもができたら武者人形やひな人形をいろいろ贈る。でも子どもが成長しちゃうと家にあっても仕方がないから処分してくれっていっぱい集まってくるわけよ。この羽子板なんか壁に敷き詰めるときれいだよ」
外壁には、ダジャレがびっしりと書き込まれた黄色い看板も。ダジャレは、歌謡曲のタイトルを中條さんがもじったのだという。「『命やらない』は瀬川瑛子の『命くれない』であり、『墓場だよ おとっつぁん』は美空ひばりの『波止場だよ おとっつぁん』であり……。若いとわかんないかもしれないけど(笑)」
見ごたえのある作品の数々だが、コンセプトやこだわりを聞いてみても「ない」ときっぱり。一方で、よりよく見せるために定期的に模様替えや配置換えを行っているらしい。
「見てくれる人が楽しんでくれればいいんだよ」
その思いはコンセプトやこだわりを超越しているのだろう。
高齢になって芸術活動に目覚める人は少なくない。中條さんもその一人だ。単純に暇ができたからというのも当然あると思うが、それだけではない気がする。中條さんは、自身の性格についてこう語っていた。
「老人になってから目立ちたがりになったんだ。昔は無口で消極的でな。結婚したけど晩婚だったし、それまで30人近く毎年のようにフラれて。年を取って“変身”したんだよ。いろんな本を読んだり、大勢の前で話せるように訓練したりして、自信がついたからだろうな」
年を取って目立ちたがりになったことを、中條さんは“変身”と言っていたが、私は別の言葉を思い浮かべた。これは“回帰”なのではないか、と。
というのは、中條さんの話や創作物を振り返ると、純粋な子どものように思えてきたからだ。「年を取ると子どもに返る」という一説を思い出すと、合点がいった。
子どもが壁に落書きをするような無邪気でまっすぐな創作意欲。ゴミをゴミとさせない大胆で自由な発想。そんな童心を取り戻して、人に自分が作ったものを見てもらいたくなったのではないだろうか。そして、そこに80年近い人生の人間臭さが融合されると、一見不可解だけど強烈なパワーを放つ化学反応が起きるのだ。
そう考えると、奥さまが「文句も言わなければ褒めもしない」というのもわかる気がしてきた。子どもがやることだから文句は言わない、だけど大人がやることだから褒めもしない。
なんだか急に“アダルト保育園”というネーミングがしっくりきた。