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お盆休みの佐野サービスエリアの「スト」報道に違和感
お盆休みの繁忙期である8月14日から、運営会社従業員の「ストライキ」が発生したことで一躍テレビでも取り上げられていた「佐野サービスエリア」上り線のフードコートと売店。
テレビ報道では当初から「有名なラーメンを食べられなくて残念」といった声や「なんでこんな時期にストを」という、ストライキすることをネガティブなものとして伝えるような報じ方が多かった。
しかし、その不信感は、16日に営業再開を報じたニュースでピークに達することになる。
テレビ朝日が、「
佐野SA再開 新たなスタッフ集め名物ラーメンも復活」 と、「ストライキ中に別の従業員を雇用して営業を再開」というニュースを、まるで朗報かのように報じたのだ。
その結果、この「ストライキ中に別の従業員を雇用して営業を再開」について、SNSでは「スト破りだ」との声が続出したのである。
この「スト破り」について、労働法に詳しい弁護士の松﨑基憲氏はこう語る。
「スト破りは、正式な法律用語ではありませんが、伝統的に用いられている用語で、おおむね『ストライキに参加している労働者以外の労働者がストの欠員をカバーするために就労すること(就労させること)によってストの実効性を減殺すること』、『そのような代替労働者』、場合によっては『ストから離脱して就労をすること』などを指しています。英語ではscabと言われます。
日本の労働組合は企業別組合が多いので、組合がストライキをしても使用者が労働市場から代替労働者を確保しやすいと言われたりしています。
そして、代替労働者として派遣労働者の派遣を新たに受けることや、ハローワークを使って代替労働者を雇うことは法律で禁止されています(職業安定法20条、労働者派遣法24条)が、スト中に新しい人員を雇って営業を再開すること自体は違法ではないんです。
最高裁も、「ストライキ中であつても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる 」と述べています(最高裁昭和53年11月15日 決定)。ただし、使用者(企業)が、スト実行中の組合員に対して「ストを離脱したら昇進させてやる」など言うことは、組合の団結権を不当に侵害する不当労働行為として違法評価を受けます」
違法性がないとなると、こうしたスト破りに対抗する手段は労働者側にはないのだろうか?
「労働者側とすれば、伝統的には『ピケッティング』という半実力行使策を講じてきました。事業場の出入り口付近で隊列を組んで代替労働者の入場を阻止したり、取引業者の入場を阻止する方法です。
最高裁は、このような実力行使のピケッティングの適法性・違法性について、『法秩序全体の見地』(刑事事件)から評価したり、『説得活動の範囲』内(民事事件)で適法としたりしています。なので、実力行使で入場阻止することは原則として違法です。
一方、説得活動の範囲ならば適法なので、スト参加労働者が集まってストの規模が大きいことや企業の不当行為を周辺で知らせることはできます。
それ以外の対抗手段としては、職場占拠(操業を妨害しない範囲で適法とする判決が多い)、ボイコット(不買運動)、怠業などが考えられます。
ボイコットは、今回のラーメン店では効果的ではないでしょう。
怠業は、働きながらも業務のスピードを遅くすること(スローダウン)などで、代替労働者を阻止できるという意味で効果を発揮することがあります。一応働きながらも、ラーメンを作る時間をおそーくしたり、ゆっくり歩いたりして営業を内部から部分的に妨害する戦略です。これは、代替労働者を阻止できると言う意味で非常に高い効果を発揮することがあります。もっとも、接客業従事者の良心に反するかもしれませんが……」
もっとも、違法性がないとしても、「新しい人員を雇って営業を再開する」ことは、企業側にダメージがないわけではないという。
「ニュース記事からの情報も不明確なところが多いのでわからないとこともありますが、スト欠員カバーに当たった代替労働者がほかの店から来たのであれば、当該ほかの店が人不足になっているはずです。なので、ストが長引けば、企業全体へのダメージは膨らみます。
スト欠員カバーの代替労働者が、新たに雇った労働者ならば、スト終了後に以前の労働者が職場に戻ると人が余ります。そうすると、誰かが退職することになり、労働問題になります」
一方、「佐野SAの”ストライキ”は正式な手順を踏んでいない」などの批判も見られたが、そのへんはどうなのだろうか?