最高裁は「記録が残っていないので、回答できない」と言う
2017年3月16日、坂口正芳警察庁長官は記者会見で「今後、GPS捜査は行わない」と述べた。前日、最高裁大法廷でGPS捜査を全面禁止する判決が言い渡されたことを受けてのものだ。しかし長年、GPS捜査を続けていた警察庁は、「裁判所の令状さえ取得すれば、今後もGPS捜査は認めてもらえる」と楽観視していた。
なぜ、かくも厳しい判決が言い渡されたのか。その真相が、筆者が入手した裁判所の内部文書から判明した。
最高裁はGPS捜査に関する令状請求の実態調査を行い、大法廷判決の参考としていたのだ。ただし、このような実態調査は「裁判官の独立」を脅かす憲法違反であるという批判も起きている。
「GPS捜査」は、警察が事件関係者の車両にGPS発信器を取り付けて行動を確認するもの。2000年代はじめから警察庁が全国の警察を指揮監督して秘密裏に行わせてきた。
しかし2010年代に入ると、事件関係者がGPS発信器を発見し、後日の刑事裁判で「違法捜査」と争われるケースが相次ぐようになる。地裁・高裁の段階では、「違法」とする判決と「適法」とする判決が半々だった。
これに決着をつけたのが2017年3月15日の最高裁大法廷判決。寺田逸郎裁判長(最高裁長官)は
「GPS捜査に関する法律がつくられない限り、同捜査は行えない」と判断した。
「GPS捜査は個人の行動を継続的、網羅的に把握し、プライバシーを侵害しうる。このような捜査は裁判所の令状がなければ行うことはできない。しかし、刑事訴訟法が規定する令状でGPS捜査を行うことには疑義がある。立法的な措置が講じられることが望ましい」(寺田裁判長)
大法廷判決の前段である「GPS捜査は、裁判所の令状なしで行えない」は、警察庁も想定していたと思われる。というのは、大法廷判決が言い渡される半年前の2016年9月に、警察庁は
「GPS捜査は裁判所の令状を取得して行う」と方針を転換していたからだ。
しかし、大法廷判決の後段である
「新法がなければ、GPS捜査は行えない」は想定していなかったと思われる。最高裁の厳格な判断の裏に何があったのか――。
警察からGPS捜査に関する令状請求があった場合、各裁判官の報告を求めていた
最高裁が全国の裁判所に対し、GPS捜査に関する令状請求の実態調査を指示した電子メール
筆者が東京地裁に情報公開請求して入手した文書から、
2016年10月以降、最高裁が全国の裁判所に指示し、警察からGPS捜査に関する令状請求があった場合、各裁判官の報告を求めていたことがわかった。これらの報告も見たうえで、大法廷判決が言い渡されたと考えられる。
最高裁の指示は2016年10月12日に吉田智宏刑事局第2課長が電子メールで全国の裁判所へ送信している。
〈捜査機関から、被疑者等の使用する車両等に移動追跡装置(GPS発信器)を取り付けて当該車両の位置情報を取得するという捜査方法(GPS捜査)について令状請求がなされるという例があった場合には、執務の参考に必要ですので、大変お手数ではありますが、当面の間、当該令状請求を担当した各地方裁判所(支部を含む。)及び簡易裁判所の裁判官に、下記の事項についてご回答をお願いできますよう、宜しくお取り計らい下さい。
1 令状請求がなされた庁
2 請求された令状の種類
3 結果(発付、却下、取下げ等)
4 その他参考となる事項(ただし、事件の内容など捜査に関わる情報についての報告は不要)〉