そして何度となく現場で耳にしてきた「すぐ払っちゃうから」との言葉。
これらが履行されたケースは100例に1件ほど。そしてこのように土壇場で難を逃れたかに見える債務者とは再び顔を合わせることになるケースが大半だ。
要は無理をしてカネを工面したが、抜本的な収支バランスを見直すことは出来ず、再び不動産執行にかけられてしまったということ――。
「老後資金」
あるところには多くあるのだろうが、無いところには全く無い。
差し押さえ・不動産執行の現場で出会う高齢者たちの大半は2000万円を持っていない。
持っていないどころか、借金を抱えている。
この点だけを切り取れば、あっという間に“かわいそうな老人たち”という構図が出来上がってしまうわけだが、果たしてそれだけで良いのだろうか。
「安物を買うのは恥ずかしい」
「この年になって美味しくないものは食べたくない」
「中古品は不安でしょ?」
「旅行は唯一の趣味だしね。削るわけにはいかない」
彼ら彼女らから出てくる「見栄」や「世間体」を気にした言葉、自分本位な理屈には何を思えば良いだろう。
生活水準を収入の水準に合わせるということは、「恥ずべきこと」ではなく「賢い選択と行動」であること、そして収入が10万円に減ってしまうのであれば10万円で可能な生活、4万5千円となってしまうのであれば4万5千円でのやりくりが可能なライフスタイル。
このような回答例を彼らに提示してあげるということが今後必要となってくるのではないだろうか。
「生活水準を下げたくない」
気持ちもわからないではないが、この言葉を破綻者たちからどれだけ多く聞いてきたかという点も脳裏の片隅において欲しい。
<文・ニポポ>