僅か20年で経済的に豊かな国が一挙に国民の飢餓を伴う経済的悲惨な状態に陥ってしまったという例は世界の歴史でも稀であろう。1999年、社会主義ボリバル革命を実施するのだとしてウーゴ・チャベス中佐がクーデターを実行して政権に就いた。原油の埋蔵量では世界最大のベネズエラである。1999年から2013年まで続いたチャベス前大統領によるボリバル革命は名目だけで、実際には彼の独裁政治であった。民間企業の利潤追求は否定され、それに不満な経営者は企業を閉鎖或いはチャベスによって国営化された。そして国営化した企業の主要ポストに経営経験のない多くの軍人を抜擢し、汚職政治が横行。
原油の輸出で挙げた資金は国内の産業発展には向けず、ラテンアメリカでボリバル革命を推進して行く為にばら撒いた。要するに、反米主義に賛同する国の連合を作り上げることであった。その典型がキューバやボリビアを加盟国に加えた米州ボリバル同盟(ALBA)である。
利潤追求を否定された多くの経営者は事業を廃業。その結果、国内で生産する物資の不足を生むようになった。政府はそれを補うために原油の輸出で稼いだ資金を不足している物資の輸入に充てた。
その一方でチャベスは彼の側近らに金をばら撒き、輸入品の価格を吊り上げて正価との差額を手数料として着服し、それを外国の口座にキープ。だから現在チャベスの残した資産を受け継いだ長女はベネズエラで一番の富豪だと言われている。
トランプの制裁も原因だが、根本はチャベスとマドゥロの独裁
原油価格が下落し始めると国の歳入の80%は原油の輸出に依存しているベネズエラだ、長期間続く原油価格の下落で国家の歳入は大幅に減少し財政が窮迫するようになった。財政難から物資を十分に輸入する外貨が不足。それに加えてハイパーインフレ。その結果、国内の品不足は深刻になった。その影響で医薬品も不足するようになった。
チャベスの後を継いだマドゥロ大統領も前任者の野望を踏襲するだけで、それに修正を加えようとはしなかった。そこから米国の利害と衝突。米国はブッシュJr.大統領の時に初めて制裁を科したが、その後オバマ前大統領はベネズエラの主要軍人の米国にある資産を凍結し、米国の企業との取引などを禁止した。
ところが、制裁の度合いが加速するのはトランプ大統領になってからである。それがベネズエラの資金不足をより深刻にさせ、外国から十分な物資を輸入できなくなった。マドゥロは現状の悲惨な状態にあるベネズエラにさせてしまったのは米国が科した制裁のせいだとして、ベネズエラの窮状の責任を米国に負わそうとしている。しかし、本質的には現在のベネズエラにしたのはチャベスとマドゥロの独裁政治が一番の要因である。そしてその犠牲になっているのがベネズエラの市民である。