れいわ新選組は「当事者固有の価値」で選挙を戦う

障がい者の自立支援をしてきた木村英子氏

木村英子氏(れいわ新選組の公式サイトより)

 一方、木村英子氏は、生後8カ月で脳性まひを患い、両足や左手がほとんど動かせず、車椅子生活だが、喋ることならできる。そこで、仲間と共に障がい者運動に携わり、35年間も地域で生活したいと望む障がい者の自立支援を続け、7月4日には秋葉原駅前での街頭演説にも参加した。  出馬会見で、彼女はこう言った。 「私は施設と養護学校で18歳まで過ごしました。けれど、施設でずっと死ぬまで生きるのは耐えられないので、19歳で自立しました。同い年の健常者の友達ができたのは、地域に出てきてからです。私の仲間たちはみんな今、施設にいます。ヘルパー制度も通勤・通学は認められてませんから、あくまでも家の中の介護。通勤・通学が認められないってことは社会参加ができないじゃないですか。そんな政策は明らかな人権侵害であり、あからさまな差別です」  ふなご氏や木村氏が当選すると、国会はただちにバリアフリーの法改正をせざるを得なくなる。重度障がい者が議員になる以上、水を飲むこともトイレも介護者が必要で、記名投票や議場での移動も難しく、議席に座ろうにも車いすでは無理というバリアを取り除く必要が出てくるからだ。

れいわの候補者たちは「当事者固有の価値」を訴えている

 れいわ新選組の代表・山本太郎氏は、生産性で人の価値がはかられる社会を問題視し、「障害者が生きられる社会は誰にとっても生きやすい社会」と言う。  高齢になると、誰もが自分の体を思うように動かせなくなる。そのつらさを先取りした障がい者の訴えを国会が受け入れることは、すべての人にとって希望を作るだろう。それこそが、当事者にしかわからないことを伝える価値だ。  れいわからの立候補者は全員、この「当事者固有の価値」を訴えている。  蓮池透氏は、北朝鮮によって家族が拉致された当事者として拉致問題の解決を訴えると同時に、東電社員として働いていた当事者として原発即時廃止を訴える。  東大教授・安冨歩氏は、「両親との縁を切った」虐待サバイバーの当事者として、東大で働きながら東大を筆頭とする教育システム自体が虐待だと訴え、「子どもを守ろう」と連呼する。  三井よしふみ氏は、過酷な生活を強いられた元セブンイレブンオーナーの当事者として、フランチャイズ契約の不当性を訴え、必要な法律を作ることを訴える。  日本自然保護協会保護室長の辻村ちひろ氏は、自然破壊で市民生活が成り立たなくなることを間近に見てきた当事者として、環境省に環境を守る認可権がない(=ほかの省庁が決める)ことや、外国からの収奪によって日本の食生活を維持している構図に対して疑問を訴えている。  元JPモルガン銀行の資金部為替ディーラー・大西つねき氏は、金融のプロの当事者として「財源がない」という官僚のウソを暴き出す。  渡辺てる子氏は、元派遣労働者のシングルマザー。新生児を抱っこしながら5年間もホームレスをやっていたという貧困当事者として、男女の著しい賃金格差、正規・非正規の従業員の待遇・賃金格差の解消を訴える。  比例ではなく、東京選挙区から立候補する沖縄創価学会・壮年部の野原よしまさ氏は、公明党が自民党と組んで与党となる中で沖縄の米軍基地の問題が放置されていることを憂う現地生活の長い当事者だ。  これまで法制度は、官僚が有識者会議に専門家や研究者を招くことで設計されてきた。  れいわから出馬した候補者たちは、そうした制度設計の現場に当事者の声が反映されなかった歴史に対して反発し、さまざまな当事者を国会へ投入することで政治や選挙そのものを面白くし、新しい改革の道を示しているように見える。  これは、「当事者運動」による市民革命だ。この当事者運動こそ、当事者満足度の高い解決策を具体的に国民に知らしめる。  実際、身体障害者の当事者の声がバリアフリー新法に反映されたことで、(一部にまだ不満は残るものの)駅にはエレベータやエスカレータが増えた。LGBT+の当事者は、パートナーシップ条例を次々に各地の自治体で実現させてきた。  こうした事実は、当事者主体の運動こそが社会を確実に生きやすいものへ変えられることを示している。  こうした「当事者固有の価値」を国政の場に持ち込もうとする戦略こそ、れいわの強みだ。当事者にしかわからない苦しみ、当事者にしかわからない解決策、当事者だからこそハッキリ言えるニーズがある。そして、あなたがこれまでの政策では生きづらい当事者なら、参院選の選択肢に迷うことはないだろう。 <文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。 1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。 その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。 著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。
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