香りブームの裏で、懸念される「香害」と「マイクロカプセル」による健康被害
微小なプラスチックを人間が吸い込んだらどうなるのかという研究はとても少ない。しかしここ数年、関心を集めている分野で、さまざまな健康被害が懸念されている。人間は、鼻から吸い込んだものをある程度は外に出す能力を持っているが、小さいサイズのものほど体の奥まで入っていきやすい。慢性的に吸い続けた場合、体内に蓄積されて重大な健康被害が生じる恐れがある。ナノレベル(1nm(ナノメートル)は1/1000μm)になれば、脳血管関門や胎盤も通りぬけることがある。内臓などが未発達な子どもは大人より脆弱で、被害を受けやすい(**)。
プラスチックを製造する際、さまざまな添加剤が使用されるが、それらもまた体内に入っていく。それぞれの製品にどんな添加剤が使用されているか、消費者にはわからない。
室内でも屋外でも、空気中に微小なプラスチックが見つかっている。一般に、室内は屋外よりも濃度が高い。日本では、学校・幼稚園・保育園に通うたくさんの子どもが合成洗剤や柔軟仕上げ剤の強い香りを身にまとっている。室内は相当なマイクロカプセル片が漂っているはずだ。それを子どもたちは、日常的に吸い込んでいるのだ。
(**:
Joana Correia Prata, “Airborne microplastics: Consequences to human health?”, Environmental Pollution, Vol.234, March 2018.、
Stephanie L. Wright, et al., “Plastic and Human Health: A Micro Issue?” Environmental Science and Technology, 51(12), May 2017.)
柔軟仕上げ剤の香料にはじめてマイクロカプセル技術が導入されたのは2008年、手がけたのはアメリカのP&Gだ。それ以来、その技術は世界中に広がり、今や洗剤メーカーはマイクロカプセル技術のおかげで香料使用量を三割も節約できるようになった。業界にとっては革命的だったか知らないが、それを吸い込まされる側はたまったものではない。
ところで香料マイクロカプセル発祥のアメリカでは、2007年から2015年にかけて、若い世代の天然志向が影響して柔軟仕上げ剤の需要がへこんだということだ。日本では同じころ、柔軟仕上げ剤の売り上げがうなぎのぼりだった。この違いはどこにあるのか。日本人が広告宣伝に乗せられやすいというのも理由の一つかもしれないが、何よりもまず香料成分やマイクロカプセルの有害性をマスコミが一向に報じないことが大きいだろう。業界の圧力が働いているのか、それともジャーナリストが香害問題を過少評価しているのか。
だが香害とは、一部の過敏な人たちだけの問題ではなく、すべての人の健康に関わる問題なのだ。多くの人が、その重大さに気づいてくれることを切に願う。
<文/鶴田由紀>
フリーライター。1963年横浜に生まれる。1986年青山学院大学経済学部経済学科卒業。1988年青山学院大学大学院経済学研究科修士課程修了。著書に『巨大風車はいらない原発もいらない―もうエネルギー政策にダマされないで!』(アットワークス)、訳書に『香りブームに異議あり』(緑風出版)など