れいわ・安冨歩候補が「子どもを守ろう」とだけ演説する理由

「この国を主導する学歴エリートは、おびえている」

 それは安冨氏だけの話ではない。一流大学に進学し、官僚や大手企業の社員になるような学歴エリートは、みなそうしたメンタリティを植え付けられているという。 「この国は、学歴エリートによって主導されています。私たちエリートはおびえています。誰かに何かを言われるんじゃないかと。とくに、自分に力を振るうことのできる人に叱られるのにおびえています。  50何歳にもなっても、親と縁を切って10年以上も経っているのに、東大教授で有名人なのに、『あゆむ』という名前を呼ばれただけで私はおびえるんです。子どもを守るというのは、私のような人間を作らないということです。そんな人間に社会を主導させたら、どうなるか想像してください。  なぜエリートは、原子力発電所のような、最初から安全に運営することなど不可能なシステムを安全に運営できると信じられるのか。彼らは偉い人に叱られるのが怖いので、そう信じられるんです。そういう人々にこの国を任せてはいけません。おびえない人に任せないとダメなんです」  エリートたちは、子どもの頃から自分より強い立場の人間と戦う勇気を育まれず、不当なことでも黙って従う大人になってしまう。原発を平然と推進できる「エリート」の官僚も、結局は上司が怖いだけの存在だ。そう、安冨氏は説いている。  そうした人々に国の重要な決定を任せてはいけないという。 「自分自身が自分自身であるということを受け入れてる人、自分がおかしいと思ったら、おかしいと思える人。そういう人にしか重要な決定を任せてはいけません。  安倍さんは学歴エリートではないです。だけど、彼はもっとすごいエリートの家の出身です。そういう人々もおびえています。お母さんに叱られるのにおびえています。おじいさんの夢を実現できないと叱られるから。  恐怖にかられて決定を下す人に社会を任せれば、社会は滅亡に向かいます。私たちが必要としているのは、おびえない、やさしい、強い心を持った人々です」

7月4日、秋葉原駅前。右から安冨歩氏、山本太郎氏、筆者

「子どもを躾ける権利なんか大人にはありません」

 安冨氏は、そうした現代日本への処方箋として、こう結んでいる。 「楽しいことをやってください。そのための心を取り戻しましょう。私たちは子どもたちに学ばないといけません。子どもを叱るのをやめてください。子どもを躾ける権利なんか、大人にはありません。私たちの狂気を今日断ち切って、子どもたちを守って、本当に楽しい社会を今、作りましょう」  毎年3000人ほどの東大生が卒業し、戦後70年以上を過ぎて約20万人以上の東大卒が日本社会にいることになる。しかし、貧困も、障害者や難病者の生きにくさも、子ども虐待も、原発依存も、東大卒は官僚になろうが、大企業に入ろうが、研究者になろうが、解決できなかった。  偏差値で序列化される学力や学歴偏重の人材登用のシステムが、社会を生きやすいものに変えられなかったのは明らかだ。  彼ら「エリート」の惨状を見据えると、安冨氏が自身のおびえを告白した上での「子どもを守ろう」と呼びかける言葉がずしりと重く響く。  日本では、全国の児相に寄せられる子ども虐待の相談件数が30年前と比べて約130倍にまで増え続けてきた。だが、子ども虐待防止を強く訴える立候補者は今回の選挙でも極めて少ない。  れいわ新選組では、比例の1位、2位の特別枠を難病者と重度障害者の候補が占め、3位に代表・山本太郎氏を据えているため、安冨氏の当選を危ういと見る向きもある。  学歴エリートに支配されない社会に生きたい日本人は、どれだけいるのだろうか? <取材・文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。 1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。 その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。 著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。
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