出版不況の時代に、自作小説を自由に広報できるサイトを作ったワケ

ノベル読もうよ

筆者が開設した「自作小説の紹介」の投稿&記事のサイト

 6月の中旬に「ノベル読もうよ」というサイトを公開した。紙、電子、Web、アプリの小説など、プロアマ問わず、自作小説の”紹介”を投稿するサイトだ。小説自体を投稿するのではなく、”紹介”を投稿して宣伝する。まだ小さなサイトだが、そうしたものを作った経緯と、どういった考えで開発したかという話をしたいと思う。

出版不況

 出版不況である。私は2016年に小説家デビューしたのだが、それ以前からずっと出版不況が続いている。全国出版協会の日本の出版統計を見ると、1996年以来、微増した時期があるものの、基本的にずっと下り坂が続いている(参照:全国出版協会・出版科学研究所)。  最盛期の1996年には1兆1,000億円ほどあった書籍の販売額は、2017年は7,152億円、2018年には6,991億円となっている(参照:出版指標年報 2018/05/18出版指標年報 2019/05/31)。  販売額が激減している中、出版点数はどうなっているか。1996年頃は6万点強だったのが、2015年頃には8万点あたりとなり、その後ゆるやかに減り、2018年には7万1,661点となっている(参照:日本著者販促センター第68回 日本統計年鑑出版指標年報 2019/05/31)。  販売額の減少を、出版点数でカバーしようとしていたが、息切れを起こしているといったところか。あるいは体力のない会社が脱落することで、出版元の数が減ったのが原因かもしれない。  いずれにしろ、世に出ている本の数は膨大だ。7万1,661点を365で割ると196.3点。毎日それだけの種類の本が出ていれば、よほど対策を講じない限り、本は想定した読者に適切に届かない。  こうした販売額の減少と出版点数の多さは、業界の人間を苦しめている。本を書く著者にとっては、本が売れない、その結果次の本が出ないという問題となっている。出版社の人間にとっては、販売額が減り、新たな社員を雇い難くなったことで、一人が受け持つ仕事の量が増えている。そして一冊ずつの本に手を掛けられない状態となっている。  インターネットを見ていると、こうした問題はマンガでよく表面化している。出版社が本を売ってくれない。その結果、マンガ家が自ら本を広報して売る。そうした状況から、出版社を通さずに本を売った方がよいのではという極端な意見も出ている(参照:「作家とマンガ誌の温度差がちょっとまずい域に来ている」漫画編集が語る出版社のこれから – Togetterこれからの作者、編集者、出版社、配信メディアの話をしよう〜最近のいろんな事件や動向から – Togetter)。  こうした話を読むたびに、既存の枠組みが徐々に壊れていく時期なのだと感じさせられる。

広報手段の模索

 出版社は、一部の売れ線の本以外は、広報に特別な力を入れない。出版社は、多くの本を世に出して、そのうちのいくつかがヒットすればよいというビジネスモデルを採用している。  本が売れていた時期は、この販売部数の違いは、富士山のような勾配をしていたのだろう。しかし現在は画鋲のような形に近づいている。  特段の広報がないのならば、そのままでは本は売れない。無名の新人の本ならなおさらだ。自前の広報手段が要る。芸能人など、異業種で絶大な知名度を持っていれば別だが、普通の著者にはそうした知名度はない。出版社が広報をしないのならば、自前で広報をするしかない。  そうした考えから私は、仕事で原稿を書いている先に相談して自前の広報をしていた。また、小説を書く人向けのソフトウェアを開発して、無償で提供して自作品の広告を掲載していた。しかし、そうした試みにも限界がある。  作者一人の力は小さい。出版社という梃子が要る。しかし、出版社が持っているメディアを使って露出を図るように相談しても、実現するのは一作につき一度ぐらいだ。何度も掲載できるわけではない。それに、狙ったタイミングに、狙った記事を載せてもらえるわけでもない。  著者が自分で広報をしなければ本を売るのが難しい時代だと感じている。しかし、その広報も、Twitterで毎日つぶやいて、少しでも人目に付くようにするのが関の山だ。  自前のメディアや、独自のルートがない限り、広報は容易ではない。本の種類によっては、オンラインサロンなどを活用して販売を促進する人もいる。しかし、誰もがそうした行為をよしとするわけではなく、向き不向きも存在する。
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自由に宣伝・広報できる「場」
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バナー 日本を壊した安倍政権
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