kurosuke / PIXTA(ピクスタ)
6月25日に放送されたNHKの番組「ノーナレ 画面の向こうから-」が大きな反響を呼んでいる。
番組宛てにSOSを送ってきたあるベトナム人技能実習生。彼女から送られてくるメールには、劣悪な住環境の中、休みもほとんどなく、低賃金で長時間の労働を強いられ追い詰められている技能実習生たちの姿があった。
技能実習生、留学生の死亡が異常に多い。法務省は、2012~17年に171人の実習生が亡くなっているというが、実数ははるかに多い。その一方で、在日外国人の数が増加の一途を辿っているが、実は外国人の検挙件数が減少していることはあまり知られていない。
ただ、その中でも数少ない例外として、ベトナム人の検挙件数は増加傾向にある。しかし、その背景には、技能実習生や実習生を犯罪に追いやる日本社会の問題があるのではないか。
『月刊日本』7月号では、この点について、ベトナム難民2世で通訳者のグエン・ハー・キエン・グォックさんに話を聞いている。今回はその記事を転載、紹介したい。
―― ベトナム難民2世のグエンさんは、通訳者として検挙されたベトナム人の弁護活動に関わっています。技能実習生、留学生による犯罪の実態はどのようなものですか。
グエンさん(以下、グエン):私は日本で生まれ育ったベトナム難民2世であり、2013年からは東京弁護士会の依頼をうけ、通訳者としてベトナム人被疑者(被告)の弁護活動に携わっています。
検挙されるベトナム人の大半は技能実習生や留学生です。彼らは多額の借金を抱えているので、それを返すまでは帰国できません。そのため、実習生は劣悪な労働環境の実習先を失踪して働いたり、留学生は法律で決まっている週28時間を超えて働いたり、ビザの期限が切れても不法滞在をして働くことになります。その結果、不法滞在者・不法就労者になってしまうのです。
彼らの多くはその事実を隠すために偽造在留カードを持っています。ネット上では在留カードの偽造ビジネスが流行っていて、「氏名」「生年月日」「顔写真」を申請するだけで偽造カードを作ることができます。日本、中国、ベトナム系の業者がおり、相場は7000~3万円です。
不法滞在、不法就労、偽造在留カード(作成、所持、行使)の罪はほぼ三点セットになっており、それ以外の余罪が加わることも少なくありません。
彼らの多くは賃金の高い東京にいます。今日はこうして新宿で待ち合わせましたが、この新宿だけで何千人のベトナム人が捕まったか。「犯罪者」にならなければ借金が返せない現実があります。
―― 不法就労にはどのような仕事が多いのですか。
グエン:佐川急便やヤマト運輸での倉庫の仕分け、タクシーなどの洗車業、ホテル清掃、コンビニやスーパーのアルバイトなどです。特にホテル清掃などでは仲介業者が不法就労だと分かった上で仕事を斡旋し、雇用主は何も知らない場合もあります。
―― それ以外には、どのような犯罪がありますか。
グエン:いちばん多いのは窃盗です。個人レベルでは生活苦からスーパーで万引きをするといった程度です。
一方、集団レベルでは盗品の転売目的でユニクロやビックカメラ、ドンキホーテ、ドラッグストアなどでの集団窃盗が目立ちます。借金を返すためにやむをえず手を染めている人間もいれば、ビジネスにしている人間もいます。それが行きすぎると、集団強盗になります。すでにドラッグストアを狙った強盗は数千件、個人宅を狙った強盗も数百件に上っているはずです。私が担当した中には、個人宅に押し入って1000万円相当の現金・貴金属を盗んだケースがありました。ベトナム人にそんな大金がある家を特定できるはずはないので、裏で指示を出している人間がいるのでしょうが、背後関係までは明らかになっていません。
それ以外には、ベトナム人同士のトラブルが多い。ベトナム人は出身地ごとにグループを作っているのですが、その間で傷害事件が起きています。私の知る限り殺人はありませんが、殺人未遂は2~3件ありました。
―― ベトナム人が被害に遭うケースはありますか。
グエン:稀にあります。道を歩いていたら日本人の酔っ払いに殴られたとか、日本人に財布を盗まれたとか。そういう時はホッとします、「ああ、今回は悪いやつじゃないんだな」と。