電気自動車(EV)の市場拡大が引き起こす、深刻な「鉱害輸出」

2019年、レアアースは急騰する!?

レアアース 筆者は2019年中にレアアースの市況は急騰するのではないかと考えている。その理由は、以下の通り。 ①市況低迷が長引き、中国の環境規制、違法採掘業者と密輸業者の取り締まりに本腰を入れてきたこと。 ②EV市場の急拡大に伴って磁石、電池分野の需要は旺盛で、飛躍的に伸びることは明白であること。 ③ライナス社のマレーシア精製プラントに対してマレーシア政府が放射性廃棄物処理条件でオペレーション・ライセンス更新に難色を示していること。 ④IoT、AIの急速な進歩に伴う新規需要拡大。  ちなみに、EVモーター用の銅や電池用のコバルト・ニッケル・マンガンなどのレアメタルはEV市場の拡大とともに2018年には上昇を始めているのに、レアアースだけが取り残されている。また、米国は中国からのレアアース製品は関税引き上げの対象から除外しているが、今後中国への報復関税の対象とならないとも限らない。このように、レアアース市場はレアメタルとは違った、複雑かつ特異な資源事情によって影響を受ける構図となっている。

レアアース開発とともに、トリウム発電が発展する

 先端産業に欠かせないレアアースは精製プロセスで放射性廃棄物が発生することから、レアメタル以上にやっかいな環境問題を抱えていることは上述の通りである。したがってEVを単純に「次世代エコカー」と位置づけてしまうことは如何なものか。 “エコカー”は、サプライチェーンを包括的にみるとEV、燃料電池車そして水素自動車の3モデルで競争しながらも棲み分けすることになるのはなかろうか。  最後に、レアアースに関して一般的にほとんど知られていない極めて重要な事実を付け加えておきたい。レアアース鉱石の中に含まれるトリウムのことである。  中国の北方鉱を精製した後の廃棄物中に含まれるトリウムは、核燃料として原子力発電に利用できる。それだけでなく、在来のウランを燃料とする発電に対して、数多くの利点を持っている。  中国政府は、約20年前からレアアース生産とともに分離したトリウムを買い上げて備蓄するとともに、トリウム原子力発電の技術開発を国家戦略として行っている。中国はウラン資源に乏しく、オーストラリア、カナダ、アフリカに依存せざるを得ない。そこで、エネルギー安全保障上からもトリウム発電に力を入れているのだ。  ノルウェーはトリウム資源が豊富で、石油資源の枯渇後をにらんでいる。ウラン資源がなくオーストラリア頼みのインドも、トリウムを含むレアアース資源は豊富に保有しているため、原子燃料としての研究開発に熱心だ。世界のトップランナーとしてトリウム原子力発電がデビューし、世界を驚かせるのは遠い先のことではない。 <文/谷口正次> 資源・環境ジャーナリスト。NPO法人「ものづくり生命文明機構」副理事長、サステナビリティ日本フォーラム理事。著書に『経済学が世界を殺す~「成長の限界」を忘れた倫理なき資本主義』(扶桑社新書)など
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会