緊急時の動線確保に四国電力がとった思い切ったこととは?
ここで、更に少しだけ西進して、岬の端から発電所を見ます。ここにはとっておきの景色があるのです。
伊方発電所地下式開閉所ほか一般建屋2019/6/10牧田撮影
まず、常に擁壁工事中の斜面付近を見ます。ここは山林火災により原子炉および周辺施設が延焼しないように植生を皆伐し、擁壁工事をしています。擁壁は、福島核災害前はただのモルタル吹きでしたが、核災害後は原子力規制委員会(NRA)の要求で、非常に強固な擁壁に変わりつつあります。ここには以前、人間が入れる程度のトンネルがあったのですが、おそらく観測用トンネルで、アンカーを打ち込み地下水を抜いたあとは最下段から埋め込まれているようです。
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擁壁強化工事中の斜面2019/6/10牧田撮影
3号炉への動線は工事のために封鎖されている。3号炉までの動線は、新たに作られた構内トンネルに移行している
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同地点2015/08/27牧田撮影
植生が多く残っている。これらはWild Fireから原子炉および周辺施設を守るために皆伐された。写真中央左寄りに謎のトンネルがある。坑門はかなり古く、地元の方によると中は行き止まりとのこと。昔の掩体壕ではないかと教えてくれたが真偽不明
実は上左の写真、重機が並んでいる直下の道路が3号炉への唯二本の動線(もう一本は、岸壁沿いのトラック離合不能通路)の為、この崖が崩れると三号炉は事実上孤立しました。更に動線が十分に太くないために緊急時の動線確保に重大な課題を抱えていたのです。
NRAがこの重大な課題を見逃すはずはありません。そこで四国電力は思い切ったことをしました。
下の写真では、何やら崖から大型バスがゾロゾロ出てきています。そうです、
四国電力は所内に大型のトンネルを作ったのです。写真では鉄塔の後ろにあるために見にくいのですが、大型バスが余裕で離合でき、クレーンなどの背の高い重機がはいることのできる立派なトンネルがあります。
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3号炉動線の立派なトンネル2019/6/10牧田撮影
ラウンドアバウトは、トンネル出口と写真右下に一部見えている。終業時間と始業時間には職員の送迎バスがゾロゾロ表れる。バス会社には大切な顧客。写真左の重機がいる付近に使用済み核燃料乾式貯蔵所が建設される計画
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全く偶然に撮影した建設中の構内トンネル2016/3/13牧田撮影
PWR系名物の濾過水タンクを撮影後、写真の点検中に左側タンク後方にトンネルを発見した。当時、誰も存在を知らず、「自分たちだけのシェルターだ!」と言う人まで現れた。いや、そこは信じてあげましょうよ
このトンネル、まっすぐならば前回ご紹介した柿が谷橋の更に山側に出てきますが、そこは埋められています。
図面と報道写真を調べたところ、このトンネルは、山の中で「逆L字型」に屈曲し、3号炉の真後ろに出てくることが分かりました。Googleの航空写真ではこのトンネルはまだありませんが、3号炉背後の崖が「逆L字型」になっている場所にこのトンネルは出てきています。
このトンネルを見るのは皆さん初めてで、絶句されていました。たったの900MWeで寿命が15年ないし35年の原子炉一基を守るために四国電力がすさまじい努力と投資をしている象徴とも言えます。私と蓮池さんは、「
これは天然ガス火力と風発を整備した方がずっとましだよね。経営資源の投入先を間違っているよなぁ」と言う点で同感でした。
ちょうど終業時間となったため、トンネルからはバスがゾロゾロと現れ、ラウンドアバウト(環状交差点)を色とりどりの車がくるくる回りますので、見ていてとても楽しいです。双眼鏡を持ってこなかったのが悔やまれます。
実は伊方発電所内には見えるだけで二カ所のラウンドアバウトがあるのですが、これらは愛媛県内1号2号ラウンドアバウトで県内にはしばらく3号以降はなかったとのことでした。昨年でしょうか、
エミフルMASAKIというショッピングセンターにラウンドアバウトができましたので、ようやく伊方発電所関係者以外でもラウンドアバウトを楽しめるようになりました。
当然ですが、就業時間に関しては、電力会社はホワイト企業で、終業時間になるとバスや自家用車、トラックが一斉に家路へと急ぐ風景が見られます。朝夕は見ていてとても楽しいです。
楽しい伊方発電所見学も一通り終えました。蓮池さんは「中からは全く分からないことばかりですよ。凄い。」と大喜びです。ここからは、三崎港まで避難経路を見学しました。
次回は伊方発電所より西側の集落を三崎港まで巡り、緊急避難経路の実態を見ましたのでそれについてお届けします。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編:蓮池透氏四国リレー講演会2
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado >
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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