9万6000トン以下ならベネチア本島まで入港してくる
現在、9万6000トン以上の大型クルーズ船はラグーナを通過するのではなくベネチア本土のマルゲラ港で停泊することになっているが、それ以下のクルーズ船はラグーナを通過してベネチア本島に停泊できる。レッタ元首相の政権時に環境保護からラグーナを通過できる船を4万トン以下と政令で決めていたが、それを不服としてクルーズ船の船会社が控訴。判決でそれが認められてこの政令は廃止された。ということで、現在9万6000トン以下のクルーズ船はベネチア本島まで入港しているのである。
ベネチア本島まで入港する場合、アドリア海に面したリド島のリド港からジュデッカ運河を経由してベネチア本島に向かっている。リド島からクルーズ船ではなくフェリーで本島に向かうという案が出されているが、客船会社は飽くまでクルーズ船で本島に停泊することを主張している。
現在代替案として有力なのはマラモコ港からペトゥロリ運河を抜けて、ビットリオ・エマヌエル3世運河から本島の停泊港に向かうルートである。水深を10.5メートルまで深めるだけでよい。19か月の工事で、費用は1億2000万ユーロ(156億円)と見積もりされているそうだ。
同盟と五つ星運動の連立政権は今月6月末までジュデッカ運河を経由する以外の解決策を見つけたいとしている。これを担当している建設省は五つ星運動のダニロ・トニネリ大臣だ。両政党が対立関係にある中、同盟のサルビニ内相は「昨年、この問題の解決はついていたはずだ。ダニロ・トニネリのせいで前進していない。彼は同盟ではない」といって五つ星運動を間接的に批判するような表現をしている。(参照:「
El Espanol」)
ただ、クルーズ船の寄港にもメリットがないわけではない。
クルーズ船がベネチアに連れて来る観光客は年間で156万人だという。即ち、一日におよそ4300人をベネチアに連れる来ている計算になる。そして、彼ら観光客の訪問によってベネチアで4000人が直接雇用で働いている。ということで、クルーズ船の入港によってもたらされる観光産業はベネチアのGDPの3%の貢献に繋がっているそうだ。(参照:「
El Mundo」)
それだけに、地元の住民が健康問題と大気汚染問題を理由にしてクルーズ船の入港に反対しても、地元の関係当局では経済を優先してクルーズ船の入港を禁止することが出来ないということなのである。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身