女性へのパンプス強制、職場にある理不尽なマナーを見直すきっかけに

従業員が企業に対し異議を唱えることの難しさを理解するべき

 企業と従業員の間に力関係が存在する中で、社内で「当たり前」とされてきたマナーに対して異議を唱えることは、容易ではない。だからこそ、企業が従業員に対して要求する事柄については、「どうして必要なのか」という理由も含めて説明する必要があると感じる。  もちろん、好きでヒールやパンプスを履く人もいる。スタイルを良く見せたい、ファッションの一環としてヒールのある靴が好きだから、など理由は様々であろう。それが、企業が求めるルールの範囲内であったなら、ただ単純にラッキーであるというだけで、ヒールやパンプスを嫌がる人に対して強制していい理由には繋がらない。  本当に、そのルールは必要なのか。守らないことで、誰にどのような迷惑をかけることになるのか。本質的な必要性を見極めて決める必要があると感じる。「好きにすればいい」という意見もあるだろうが、企業「ルール」や「義務」を提示すると、従業員は、個人としての主張や自由を唱えづらくなってしまう。それを企業は理解し、現存の一つ一つのルールに対して向き合うべきであると感じる。

いつの間にか作り上げられる、不要な対立構造

 #KuTooのような問題提起に対して、様々な意見が聞こえてくる。このような議論を「女性の問題である」と捉えて「いちいち面倒くさい」と考える男性の声や、「自分で上司に掛け合えばいいのでは」という声など、様々だ。  中には「女性として美しくなるための努力をしない人の意見だ」「楽をしたい人の意見だ」等の声もある。しかし、これは「女性の問題」でも「美しくなることを放棄した人の意見」でもないと考える。  不必要であるはずの、ともすれば個人のみならず企業にとっても不利益となるかもしれないことについて、出来る限りなくすための運動なのではないだろうか。これまで「当たり前」だとされていたことは、本当に必要なことなのか。今まで見過ごされていた個人の不利益を、なくすことは出来ないのだろうか。  このムーブメントを、パンプスやヒールの話に限ったものとして捉えることは、あまりにも勿体ないと感じる。「男性vs女性」「パンプスを履きたい人vs履きたくない人」というような不必要かつ的外れな対立構造を作り議論するのではなく、皆が当事者であるという前提のもとで、社会全体の問題として捉えていくべきだと思う。 <文/汐凪ひかり>
早稲田大学卒業後、金融機関にて勤務。多様な働き方、現代社会の生きづらさ等のトピックを得意分野とし、執筆活動を行っている。
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